大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、収入減の夫への不満が募るなか、元カレと再会して盛り上がり、離婚したほうがいいかと悩む30代女性の相談にお答えします。
【Q】家庭内不和のなか昔の彼と再会し、つい…
小学生の子どもを2人育てている30代のママです。結婚前からずっとサラリーマンだった夫ですが、会社の愚痴が増え、あることがきっかけとなって、昨年40代突入を前に会社を辞めました。自分で事業を始めたのですが、以前ほどの稼ぎはありません。徐々に、夫に対して不満が募るようになりました。
そんなとき昔、つき合っていた彼と偶然出会い、以後定期的に会うようになりました。手をつないで街を歩いたり、一緒に昼寝をしたり。まるで昔に戻ったみたいでとても新鮮です。子どものことを考えると離婚しないほうがいいだろうとは思いつつも、今は確実に夫よりも元カレのほうに魅力を感じている自分がいて悩んでいます。これからどうしたらよいのでしょうか。
元カレの魅力は“非日常”という新鮮さ?
気持ちが揺れ動いていますね。昔の彼に惹かれているようですが、どこに魅力を感じているのかをまず考えてみましょう。「昔に戻ったみたいでとても新鮮」とのことですが、“非日常”であることが新鮮だからではないかな、という印象を受けました。現実は夫に対する不満がいっぱいのようですから、現実から離れる彼との時間は夢の時間に感じるかもしれません。
夫への不満は、収入が減ったという不満だけでしょうか。これがトリガーとなり、溜まっていたいろいろな不満が噴出しているのかもしれません。
または元カレと再会したあとから夫への不満が湧いてきた、というパターンもあるかもしれません。夫への不満は彼と会うことを合理化するため、という可能性もあります。「わたしはこんなに大変なので、不倫してもいいのでは?」と自分に言い聞かせるように…。
悲劇のヒロインになっていない?一番大切なものとは
彼とは「手をつないで街を歩いたり、一緒に昼寝をしたり」して過ごしているということですが、まるでドラマのワンシーンですね。「運命の糸で結ばれているはずなのに一緒になれないなんて」と悲劇のヒロインに浸ってしまっているかもしれません。特別なわたし、かわいそうなわたしを演出したい。そんな心が見え隠れしています。
極端になると演技性パーソナリティ障害という病名がつくケースもあります。芝居がかった態度、誇張した態度で「わたしを見てほしい」という合図を出します。愛情を求める行動です。
でもここで一度冷静に考えていただきたいのが、「このなかで一番大切にしたいのは誰?」ということです。ご相談内容に「子どものことを考えると離婚しないほうがいいだろうとは思いつつも…」というくだりがありましたが、きっと相談者さんにとって一番大切なのは2人のお子さんなのではないでしょうか。
子どもにとって一番身近な大人は親です。両親を見て、コミュニケーションを学んでいます。夫婦のコミュニケーションはとれているでしょうか。感謝の言葉は伝え合っていますか。「子どもたちのため」という理由で、夫婦が会話し、その様子をお子さんたちに意識的に見せられるといいですね。
元カレとの非日常が“日常”になったときをイメージして
また、彼との“非日常”を楽しんでいるようですが、彼との日々が“日常”になったら今ほど新鮮でも魅力的でもなくなる可能性は高いです。例えば靴下は放りっぱなし、家事はしないなど、とんでもない現実が待っている可能性だってあります。離婚の話し合いや手続き、報告もかなり大変なものです。
「恋は盲目」とよく言われますが、今は冷静に周りが見えていないのかもしれません。でも一歩引いて考えてみてください。もう一人の自分だったら、または親友だったら、この状況を知ったとき、なんてアドバイスするでしょうか。具体的にイメージしてみるのもひとつの方法です。
今、夫に対してはあらゆる不満ばかり気になるかもしれませんが、冷静に第三者から見ると、自分で事業を起こした行動力とバイタリティーは素晴らしいです。
ぜひお子さんたちのためにもご自分を客観視して、誰の何が魅力的なのか、もう一度考えてみてくださいね。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!