義両親とのつきあい方は、昔も今も「嫁」の立場としてはいろいろ問題を感じるものです。ただ、自分は義両親を悪く思っていないのに、夫の「親への態度」が納得いかないと思うこともあるようです。

 

人間的にも尊敬できる義母に「冷たい夫」

義父が亡くなり、3年ほど前に夫の実家で義母と同居することになったカオリさん(43歳=仮名、以下同)。3歳年上の夫との間に14歳と11歳の子がいます。

 

「結婚したときから思っていたんですが、義母はとても穏やかでおっとりした人。なんでも決めつけないし、人の話を聞いてくれるから信頼できるんです」

 

共働きなため、同居すると義母に負担がかかると心配しましたが、「私はできることしかしないから、大丈夫」とニッコリ。子どもたちも優しいおばあちゃんとの暮らしにすぐ慣れていきました。

 

「私が怒っても子どもたちには、義母という逃げ場がある。これが私にとっても気持ち的にラクでした。義母はそのあたりもわかってくれていて、甘やかしすぎない。子どもの言い分も聞いたうえで、『わかったから、その話をママにしてごらん』とか、『それはあなたが謝ったほうがいいわね』と、適切にアドバイスしてくれるんですよ」

 

カオリさんにとっては最高の義母ですが、夫はなぜか自分の母親に冷たかったそうです。家族で外食に出かけようというときも母親を誘おうとしないから、子どもたちやカオリさんが誘うのですが、義母のほうもどこか息子に遠慮している気配がありました。

義母と夫に横たわる「子ども時代」のある感情

「義母は家事もやってくれるし、食費や雑費も出してもらっています。自分の趣味ももっているから精神的にも自立している。グチもこぼさない。どうして夫が冷たいのかがわからなかった。あるとき聞いてみたら、『オレはいつも兄貴と比べられていた。かわいがられた記憶がない。同居してから、そのころのことを思い出すんだ』と」

 

カオリさんはそれとなく義母に、かつてのことを尋ねてみました。すると「長男は体が弱くて、10歳ころまで入退院を繰り返していた。だからつい次男(カオリさんの夫)には、なんでも自分でやるように強要したかもしれない。お兄ちゃんは勉強や読書、次男は運動が得意で勉強はイマイチ。ついふたりの成績も比べたかも…」という答えが返ってきました。

 

「昔のことだし、兄が入退院を繰り返していた記憶より、その後も母親が兄ばかり気にしていたことを覚えていたのかもしれません。義母と夫の間には、立場や記憶の違いから、誤解があるような気がしたので、少しずつ私が昔の話を振ったりしてみたんです」

 

すると案の定、「あのときはこうだった」「いや、そうじゃない」という話が繰り返されるようになりました。ただ、ふたりとも誤解していたことには気づいたのでしょう。「いまさら、こんな話をすることに意味がないよね」とある日、夫が言ったんです。夫は自分の思い込みから母親を疎ましく思っていたことを認めました。義母も「育て方に偏りがあったのは反省している」と言って。

 

すると、ふたりの間にあった固い何かが徐々にほぐれていきます。時間はかかりましたが、いまではごく自然に冗談を言ったり、言いたいことを言って「説教くさいこと言わないでよ」と、義母が息子に反抗する姿を見て、カオリさんは心からホッとしているそうです。

 

「今年の私の誕生日には、義母から『あなたのおかげで、長年の息子とのわだかまりが溶けた気がする。ありがとう』と言われました。私は正直言って、家の中でギクシャクした感じが耐えられなかっただけなんです。息子に疎まれる義母が気の毒で、夫の心が疲弊するのも見たくなかった。それだけだから、義母に大げさに感謝されて得した気分」

 

カオリさんは明るくそう言って笑いました。

 

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里