大恋愛で結婚したはずなのに、気づいたら「夫嫌い」に…。そんな自分に気づいたとき、妻は傷つきます。どうしてそうなったのか、どう考えてもわからない。気持ちが変わってしまった自分を責めることもあるでしょう。
猛アプローチをかけてきた夫と結婚
「いまはとにかく、夫が嫌いでたまらないんです。家の中ですれ違うだけで、背筋がゾゾっとするくらい。いったい私、どうしちゃったんでしょう」
4歳年上の夫とは結婚して9年、8歳の娘がいる杏子さん(40歳=仮名、以下同)はそう言います。夫とは職場恋愛で彼から猛アプローチを受けて、つき合うようになりました。
「私は最初、職場恋愛は嫌だなと思ったんですが、彼のことは仕事ぶりや周りの人への接し方を見ていて好感をもっていました。だから猛アプローチされたときは嬉しかったし、つき合うと、どんどん好きになっていきました」
1年半ほどつきあってふたりは結婚。結婚後も部署は違っても同じ会社で働いていたのですが、妊娠を機に彼女は仕事を辞めました。
「夫の希望です。私は仕事を続けたかったけれど、つわりもひどかったし、夫が『まずは体を大事にしてほしいし、子どもが生まれたら小学校に入るまでは家にいてほしい』と言い出して。悩みましたが、その時点では本当に体がつらかったので、しばらく休んで、また新たな仕事を探そうと決心しました」
夫は娘が生まれたときは心から喜んでいました。子育ても積極的に関わっています。ところが、家庭という形が強固になっていくにつれ、夫の言動も変わっていきました。
「ときどき、カチンと来ることを言うようになったんです。産後、体型がなかなか戻らない私に『きみも知ってるAさんは、出産後、半年くらいで会社に戻ってきたけどスリムになってたよ』と、言ったのでムカッとしました」
家を買うとき「オレの城」と言い放った夫
今後のことを考えてコロナ禍直前に、中古マンションを購入しました。引っ越しが終わったとき、夫は「とうとうオレの城を手に入れたなあ」と感慨深げに言ったそうです。
「自分ひとりで手に入れたつもりなんだ、と感じた瞬間、嫌なヤツ、と思ったんです。私は夫の反対を押しきって、娘が2歳になるころから保育園に預けてパートで働き始めました。夫の給料だけでは今後、やっていけないと思ったから。それにそもそも私が仕事を辞めたのは夫の希望。なのに、自分の力だけで家を手に入れたと思っている」
自分は養われているだけなのかと、がっかりした杏子さん。夫婦の思いが、徐々にすれ違いを起こしていきます。
「家のローンが大変な分、私も頑張って稼ぐからと嫌味半分で言ったら、夫は『オレと同じくらい稼いでよ』って。冗談かもしれないけど嫌な気持ちでした。コロナ禍で夫の残業代が減ったときも、私はしかたないよねと言ったんです。それなのに夫はイライラしていたのか、『稼げない夫とは離婚する手もあるけど、きみはひとりじゃ生きていけないでしょ』って」
「テンパってない?」夫の説教なんて聞きたくない
感じが悪いし腹が立った杏子さん。「私はあのまま仕事をしていたら、夫より出世していたんじゃないかと思うんですけどね」と、苦笑します。彼女が育児で思い通りにいかず苦労していたときも、夫は説教のようにこう言ったそうです。
「オレは3人きょうだいで、おふくろはずっと仕事をしていた。ひとりしか育ててないし、オレだってかなり育児をやっているのに、どうしてそんなにテンパるの?要領が悪いんじゃないのかな」
冷静にそう言う夫を冷たいと感じた杏子さん。もちろん、自分に至らない点があるのはわかっていますが、初めての子育て、そう簡単にはいきません。夫はあくまでも「手伝うスタンス」を変えないから、客観的に見ることができるのでしょう。
「最近は夫が何をしてもムカつくし、イライラ。このままどうやって家庭を続けていけばいいのか、わからなくなっています」
夫嫌いが憎悪に変わったら心を病んでしまいそう。その前に関係を見直したり、いずれ離婚することを視野に入れたうえで、どう割りきって家族としてやっていくのか考えたりする必要があるのかもしれません。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里