人は体調もこころの状態も変化していくもので、夫婦関係も年月がたつにつれて変わっていくでしょう。ただ、そういうものとは何かが違う、夫の様子がおかしいと「妻の本能」が感じるとき、どうすればいいのでしょう。

 

妻と距離を置こうとしている?夫の不可解さ

最近、なんとなく夫に元気がない、不機嫌なわけではないけど何かがおかしい。そんなふうに感じたことがあると話すユミコさん(38歳=仮名、以下同)。結婚して8年になる夫との間には、6歳のひとり息子がいます。

 

「1年半ほど前でしたね。息子の七五三をどうしようかと相談していたんですが、『七五三なんて、本当はどうでもいいよな』と夫が言い出しました。息子のことになると何でもやりたいタイプだったから意外で。それをきっかけに、夫の様子がおかしいなと思うことがどんどん顕在化していったんです」

 

言葉ではうまくいえないけれど、家族と少しだけ距離を置こうとしているとユミコさんは感じました。とくに自分を避けているのではないか、と。言葉にすると強烈だけれど、必要以上にしゃべらなかったり、スキンシップが極端に減ったりもしていました。そうかと思うと、思い出したようにユミコさんの好きなスイーツを買ってきたり。

 

「もともと共働きだし、あまりゆっくりコミュニケーションをとる時間もなかった。息子が生まれてからは子ども中心になっていて。このままだといつの間にか会話のない夫婦になりそうで怖かった。そう思っている矢先のできごとでした」

「子どもの送迎も料理も」急に夫は活動的になって

妙な胸騒ぎもしたそうです。ユミコさんは、考えていることを胸に秘めておけないタイプ。

 

「半年くらい様子を見ていたんですが、私のほうが疲れてある日、過労で倒れてしまったんですよ。そうしたら夫は子どもの送り迎えから朝早くに起きて夕食の下ごしらえまで、家事も育児も積極的にやってくれて…。あれは私の思いすごしだったんだろう、申し訳ないな、ありがたいなと思っていました」

 

ところが彼女の体調がよくなると、またも夫と心が通わないような奇妙な空気に戻ってしまう。これ以上、我慢してもいいことはないと思ったそうです。

 

「私はあなたとの関係を気に病んで疲れてしまった。これ以上、考えても答えは出ない。仕事が忙しいだけなのか、他に心配ごとがあるのか。あなたは聞いても何も答えてくれない。まさか、浮気でもしてる?」

 

彼女は思いきって、思いのたけを言葉にしてみました。夫はユミコさんをじっと見つめて、「僕の大事な家族はきみと息子だけだよ」と答えました。はぐらかされたような感じです。

 

「私も混乱するばかりだったので、仲のいい義姉(夫の兄の妻)に、『ここだけの話だけど』と相談しました。すると義姉は『本当のことを知りたいならプロに頼んで探る方法はあるわよね。彼が何かを隠している気はするけど、浮気の問題なのか、隠しごとをしていること自体が問題なのか』と私の疑念をほぐしてくれたんです。私は何が不安なのか…」

 

自分の心に何度も問いかけました。ユミコさんにとって問題なのは、夫と心が行き交うような会話ができていないこと。夫にもし言えないことがあるとしても、夫が自分だけで解決したいことならば、それを邪魔するつもりはないと思えたのです。

我慢できず思いきって妻が夫に聞いてみると…

「夫に『何か私に不満はない?』『今の生活を楽しんでいる?』など、いくつか問いかけてみました。夫は『ユミコは僕にとって最高の妻だと思う』と言ってくれた。でも私はちょっと寂しい、あなたともっとたくさん話したいと素直に伝えました」

 

それからしばらくして、夫は学生時代からの友人が困っていたので、独身時代からの貯金を貸したこと、友人の行方がわからなくなったこと、そのお金は本来、息子の教育資金にするはずだったことなどをようやく話してくれたそう。

 

「私からすれば、なんだそんなこと、と思いました。お金は大事だけど人の健康や心よりは大事じゃないよ、最初から話してくれればよかったのにと言ったんです。夫もホッとしたような顔をしていた」

 

こうしたことを経験していくことで、夫婦の価値観をすりあわせていくことができるのかもしれません。そして何より自分自身が何を大事にしているかがわかってよかった、とユミコさんは胸をなでおろしたそうです。

 

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里