いまなお存在感を放つ、少女漫画の女王・一条ゆかりさん。10代から描き続け、話題作を世に出し続ける仕事への情熱とこだわりはどこにあるのでしょうか。(全3回中の3回)

貴重な一条さんによる自画像 (C)一条ゆかり/集英社

40代は何かを「あきらめるかどうか」決断のとき

── 50代で描いた『プライド』で「人としての誇り」を描ききり、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。エッセー集『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』でも「50歳を過ぎたら、人生でやり残したことをチェックすべし」とありますが、準備期間の40代にやっておくことはありますか?

 

一条さん:今後、体力も集中力もどうしても落ちていくから、死ぬまでにやりたいことを「やるのか」「あきらめるのか」決めておくべきです。仕事でも趣味でもなんでもいいので、現実的な選択を。

 

── では年齢に関わらず、漫画家として意識していることはありますか?

 

一条さん:現状維持だけだと“古い人”になってしまいます。19歳のとき、パーティで大先輩の漫画家さんが「ずっと同じように努力してるのに、最近扱いが悪い」って愚痴っているのを聞いて、「同じ努力だけじゃだめ」と悟りました。

 

私は飽きっぽいし実験好きなうえにミーハーで、興味がわいたらすぐやりたくなる性格です。作品で安全なことをするのはつまらないし、いつも攻めていたい。世の中にあわせて進歩しないと、ゆるやかに落ちていっちゃいますよ。

デザイナーのプライドをかけて、実の娘と向かい合う母・鳳麗香。『デザイナー』より (C)一条ゆかり/集英社

── “古い人”にはなりたくないですね…。ではご自身が、年齢を重ねるうえで気をつけていることはありますか?

 

一条さん:現時点の自分の体力含む実力、他人からの評価を正確に把握しないとやりたいことはかないません。過去にとらわれて自分の価値を過大評価しすぎると、「どうして以前のように、まわりはチヤホヤしてくれないんだろう?」と“痛い人”になってしまいます。

 

いまでも好奇心は旺盛ですが、さすがに年齢とともに常識家になってきました。昔の彼氏に「とんがってたのが面白かったのに、丸くなってつまらなくなった」って言われてショックを受けたことも。でも、新人時代は好き勝手言ってもそんなにとおらないけど、いまやるとまわりへの影響力が大きいので、気は遣わないと。これが大人になるということかな。大人としての配慮やバランスも必要ですね。

読者の持つ「一条ゆかり像」を守り続けたい

── 進歩する努力、好奇心と配慮。かっこよく年齢を重ねるコツですね。著書にある「ダイエットは一生エンドレスの闘い」の言葉には驚きました。年齢を重ねてなお高い美意識…。

 

一条さん:私、食い意地がはってるの。鮨が大好き(笑)。だから、ずっとダイエットしてます。私が描いてきた作品を考えると、内容的に作者が太るとイメージがあわないでしょう?たまに読者をちょっと裏切りつつ、死ぬ思いで作り上げた“一条ゆかり”をできる限り長持ちさせたいんです。

 

── 読者のために、 “一条ゆかり”を守り続ける努力をおこたらない。一条さんのそのパワーはどこから?好きなものや推しなど、いま、一条さんを支えるものは?

 

一条さん:うーん、推しはいないですね。強いていえば、推しは私(笑)。やりたいことを実現するためには冷静な自己分析が必要ですが、正しく評価して自分を愛してあげる努力も大切です。もし、世界中の人がいらないと言っても、私は『私をほしい』と言ってあげたい。

 

PROFILE 一条ゆかりさん

1949年岡山県生まれ。1967年第1回りぼん新人漫画賞準入選。代表作『デザイナー』『砂の城』『有閑倶楽部』『プライド』『正しい恋愛のススメ』。2007年『プライド』で第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。2022年『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!!一条ゆかりの金言集』刊行。

 

取材・文/岡本聡子 撮影/坂脇卓也 画像提供/一条ゆかり、株式会社集英社