故人の遺品整理や孤独死のあった現場などを片づける特殊清掃に携わる小島美羽さん。さまざまな背景を持つ孤独死の現場に立ち入った経験から、「孤独死は誰にでも起こりうること」と伝えるために、現場の特徴を表現したミニチュア作品を手掛けるようになりました。それぞれのミニチュアに込めた思いや現在制作中の作品について伺いました。

 

※記事内には孤独死現場をモチーフにしたミニチュアの画像がありますので、閲覧の際にはご注意下さい。なお作品は実際の故人の部屋をそのまま再現したものではありません。

単身赴任中や二世帯住宅での事例も…「孤独死は他人事じゃない」

お風呂でのヒートショックによる孤独死の現場を表現したミニチュア。寒い時期は湯船の中で亡くなっているケースが多く見られるのだそうです

── 小島さんが制作されているミニチュアについてお聞きします。個人的に、お風呂の中で亡くなり、湯船から茶色い水が溢れ出ている作品が印象的でした。どのような意図で作ったのでしょうか?

 

小島さん:私はまず孤独死にまつわる伝えたいテーマを決めて、それに沿ったミニチュアを制作していきます。これはヒートショック(※)によるお風呂での孤独死をテーマにしたミニチュアです。

 

ある現場では、お風呂の保温機能が42℃に設定されており、温度が下がると自動的に追い焚きが繰り返されたことで、真冬だったにも関わらず、ご遺体の腐敗がかなり進んでいました。また、冬場の便座の冷えにより、トイレの中で座ったまま亡くなられる方もいらっしゃいます。

 

ヒートショックこそ誰にでも起こりうるものですが、急激な温度差を避けるように心がけることで、かなりリスクを減らせると思うんです。脱衣所にヒーターを置くなど、今一度予防策を考えてもらうためにつくりました。

(※)ヒートショック…急激な寒暖差によって血圧が乱高下したり脈拍が変動したりして、失神や心筋梗塞など心臓や血管の病気を引き起こすこと。特に冬場に、暖かい部屋から冷え込んだトイレや浴室に移動したり、かけ湯をせずにすぐにお風呂に浸かったりした場合に起こりやすいといわれている。

 

── 孤独死の現場を表現したミニチュアをつくる理由を教えてください。

 

小島さん:年に一度、東京ビックサイトで催される葬祭業界のイベント「エンディング産業展」の展示のためにつくったのが始まりでした。それまでは来場者にショックを与えないように、生々しい部分が写っていない作業中の写真や、実際に使っている道具や作業着を見せながら、来場された方たちに口頭で説明していたんです。

 

でも、当時は遺品整理や特殊清掃という言葉がまったく知られていなくて、説明しても「なんだそれ?」という反応だったんですよ。孤独死の核心に迫る部分が見せられないので、なかなか想像してもらいにくく、「私には関係ないわ」「結婚しているからこうはならない」と言われることばかりでした。

 

孤独死は誰にでも起こりうることなのに、それが自分の身に起こるとは思っていない。みんなが「関係ない」と言うことにすごく焦りを覚えて、「どうにか自分ごととして考えてもらいたい」と思いついたのがミニチュアをつくることでした。

 

ミニチュアなら生々しくなりすぎずに見てもらえるし、それが目の前にあることで想像しやすくなります。特定の孤独死の現場ではなく、さまざまな現場の特徴をまとめることで、故人のプライバシーや遺族や大家さんの感情にも配慮できると思いました。

部屋には督促状や豆腐のパックが山積みに 遺品整理人が見た“餓死の部屋”

── 世間的には、孤独死は主に“高齢者のひとり暮らしで起こるもの”と捉えられているように思います。一方、小島さんが「誰にでも起こりうること」と考えるのは、これまでさまざまな現場で見てきたものがあるのでしょうか?

 

小島さん:今からご飯を食べようと支度をしていた途中に倒れるなど、これからも普通の日常を送るつもりだったのに、突然亡くなられる方もたくさんいらっしゃいます。若くして孤独死された現場もありますし、これに年齢は関係ありません。

 

なかには単身赴任中にひとりで亡くなられた方や、二世帯住宅なのに発見が遅れたケースもありました。死の瞬間がいつ訪れるかなんて分かりませんし、孤独死はさまざまな場面で起こりうることなのだと思います。

 

独居の中高年男性の孤独死の部屋を再現したミニチュア。食べかけのコンビニ弁当が、これから続くはずだった生活を思わせます

── 最も多いのは50〜60代男性のひとり暮らしで、死後3〜6か月が経過して見つかるケースだそうですね。こうした中高年男性の部屋を再現したミニチュアには、どのような特徴が詰め込まれているのでしょうか?

 

小島さん:まず、衣食住が小さなスペースのなかで完結しているんです。共通しているのは布団の上で生活していること。ちゃぶ台から手の届く範囲に布団が敷いてあり、そこで食べたり飲んだりしてそのまま寝ているようです。

 

ちゃぶ台の周りに、コンビニ弁当の容器やカップ酒、飲みかけの一升瓶のゴミが散らばっているのを見ると、こうした食生活の影響で、脳梗塞や血管系の病気で亡くなられたのだと想像できます。

 

── 小島さんがツイッターで紹介していた“餓死の部屋”のミニチュアも衝撃的でした。

 

小島さん:すごく多いわけではないのですが、一定数こういう現場はあるんですよね。私たちは死因が餓死だと分かって依頼を受けているのではありませんが、清掃をしていくうちに「これって餓死だったんじゃないか…」という証拠のようなものが出てくるんです。

 

大量の督促状が見つかったり、電気やガスが数か月前から止められていたり、冷蔵庫の中には調味料しか残っていなかったり。キッチンには豆腐のパックが山積みになっていることも多いんです。おそらく安い豆腐で飢えをしのいでいたのではないでしょうか。

 

餓死で亡くなったことを感じさせる部屋のミニチュア。キッチンのカウンターには豆腐の空きパックが山積みになっています

私としては、餓死ってその人だけの問題じゃないと思っています。国の支援が必要な人に行き届いていないことで、令和の世の中でもいまだに、こうした生きづらさを抱えながら苦しい生活を送っている人がいる。はっきりとした答えがあるわけではないのですが、ただ「故人が働けばよかったじゃん」と自己責任に収めるのではなく、皆さん一人ひとりにこの現状を考えてほしいと思い、制作しました。

 

── ミニチュアを制作するようになり、周囲の孤独死に対する反応は変わりましたか?

 

小島さん:初めのうちはエンディング産業展に出すために、毎年新作のミニチュアを数か月かけて仕上げてきましたが、メディアからの依頼などでつくる機会も増えてきました。見てきた現場を口頭で伝えるだけではあまり深く考えてもらえませんでしたが、ミニチュアが目の前にあることで「自分もこうなるかもしれない」と、想像してもらえるようになったと感じています。

 

ゴミに溢れた部屋のミニチュアを展示したときは「自分の家だ…」と驚く男性が何人かいらっしゃいました。特に、忙しい職種や、周りに気を遣う職種の方は、仕事でエネルギーを使い果たして、家の中が荒れてしまうことが多いように思います。

 

足の踏み場も無いほどゴミで溢れかえった現場のミニチュア。実際に見た人からは「自分の部屋だ…」と共感する声も寄せられたのだそうです

望まない孤独死を防ぐためにできること

── ちなみに今はどんなテーマでミニチュアを制作されているのでしょうか?

 

小島さん:「趣味の部屋」というミニチュアをつくっている途中です。私はアニメのフィギュアやキャラクターのグッズを集めるのが好きだったのですが、こうした趣味のもので溢れている部屋での孤独死は、あまりの遺品の多さにご遺族が困り果ててしまうんです。

 

もちろん収集する側の気持ちにも共感できるので、無理に捨てろとは言いたくありませんが、「そろそろこのジャンルは終わりかな」と思うものは少しずつ断捨離していこうというメッセージを込めています。

 

あと、亡くなった後に見られたくないものは整理しておくことですね。。パソコン内のデータはパスワードを複数回間違えたら自動的に消去されるようにするなど、先のことを考えて対策をしておくことも大切かなと思います。

 

現在制作中の「趣味の部屋」の一部。ラックにはアニメのキャラクターのフィギュアが山積みになっています

── たしかに、家族とは言えども見られたくないものは誰にでもありますよね。

 

小島さん:さまざまな対応の仕方はあるかと思いますが、私の場合は現場で「親族にも見られたくないだろうな」と思われるものはそっと処分するようにしています。たとえば、遺品から故人さまが性的マイノリティだったことが分かることもあるのですが、亡くなられたとはいえプライバシーに関わりますし、遺族の方が知らなかった場合はアウティングになってしまいます。ご遺族の方にもさらに動揺を与えてしまうかもしれないので、双方に配慮して見せないようにしています。

 

── これからもミニチュアの制作は続けていくつもりでしょうか?


小島さん:私が遺品整理・特殊清掃の仕事を始めた頃と比べたら、社会に「孤独死」という言葉も広く浸透しました。現時点でミニチュアを通して伝えたいことは届けられたと思っているので、ひとまず「趣味の部屋」を区切りにするつもりです。ただ、コロナ禍を経て色々な状況が変わってきましたし、私のなかでまた伝えたいことが生まれたら、改めてミニチュアをつくっていきたいと思っています。

 

椅子に座ったまま亡くなったであろう現場を再現したミニチュア。こうした高級マンションの部屋は防音対策やオートロックなど“密閉度”が高いことで、かえって発見が遅れることもあるのだそうです

── 小島さんは、自宅でひとりで亡くなることを悪いと捉えているのではなく、発見されるまでに時間が経ってしまうことが問題だと考えています。孤独死が見つかるのが遅れたり、本人や周囲が“望まない孤独死”を防いだりするためには、どうしたらよいのでしょうか。

 

小島さん:孤独死が発見されるまでの時間は、昔に比べたらだいぶ早まっているように思います。私が働き始めた頃は半年後なんて普通でしたし、なかには死後2年以上が経過しているケースもありました。最近は孤独死という言葉が浸透してきたこともあってか、発見が3日から1週間、長くても3か月後と徐々に縮まっていると感じています。

 

孤独死を完全に無くすことは難しいかもしれませんが、発見を早めたり、亡くなる前に助けられたりすることはできるのではないでしょうか。たとえば、玄関やトイレなどに設置したセンサーが長時間反応しなかったり、電気やガスが使われていなかったりした場合に、親族に教えてくれるサービスもあります。

 

ある警備会社では、専用のペンダントを身につけておくことで、部屋の中で倒れたり、一定時間動きが無かったりした場合に、警備員が駆けつけてくれる見守りサービスもあります。こうしたものを取り入れたら、もしかしたら一命を取り留められるかもしれません。

 

あとは、やはり近所の人同士で互いに気にし合うことも大切なのではないでしょうか。たとえば、近所の住民の「あの家、いつも朝に雨戸を開けるのに…」という些細な一言から、室内で倒れていたことが発覚したケースもありました。近所付き合いは行き過ぎると「監視」になってしまうので難しいのですが、会ったらあいさつを交わすなど、“ゆるいつながり”は必要なのかなと思います。

 

PROFILE 小島美羽さん

1992年、埼玉県生まれ。郵便局員を経て、2014年より「遺品クリーンサービス」(株式会社ToDo-Company)に所属し、遺品整理や孤独死、ゴミ屋敷などの現場の特殊清掃に従事する。2016年から孤独死の現場を再現したミニチュアの制作を始め、国内外のメディアやSNSで話題となる。著書に『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』、企画・原案に『あなたの生きた証を探して 遺品整理人がミニチュアで表現する孤独死の現場』を持つ。

 

取材・文/荘司結有 写真提供/小島美羽