ペットの犬や猫の数が15歳未満の子どもの数を上回るなか、迷子になるペットも増えています。いなくなったペットを捜索するペット探偵の仕事について、ペットレスキューの遠山さんに伺いました。
ペットがいなくなる危険性は1年中
── いなくなってしまったペットをどうやって探しているのですか。
遠山さん:飼い主さんからの聞き取りが一番大事です。ペットが過ごしていた生活環境について伺うのですが、家でずっと過ごしてきたのか、少し前まで外で飼っていたかによっても探し方が変わってきます。家で過ごしてきた子が初めて外に出ると、車の音や人の動きに驚いてしまって、とる行動も変わってきます。
あとは臆病なのか好奇心があって大胆なのかなど、ペットの性格についても聞きます。こういう子ならこういう行動をするかなと、捜索の仕方やどういう作業が必要かということもケースバイケースで考えていきます。
── ペットはどのようなシチュエーションでいなくなってしまうのでしょうか。
遠山さん:依頼は猫が圧倒的に多くて9割ほどを占めています。犬がいなくなってしまう際は、散歩中に首輪が外れてしまったり、リードを手から離してしまったり、物音に驚いて家から飛び出てしまう場合もありますし、普段とは違う環境でペットホテルや病院から逃げ出してしまうケースもあります。
家で飼っている猫は、換気で開けていた窓や玄関から外に出てしまうようです。それに、家の2〜3階くらいの高さでは簡単に外に飛び降りてしまいますので、どの部屋にいても安心ということはありません。
猫は外の様子が気になるので外に出られる機会をよく見ています。飼い主さんが帰ってきた時にドアが開くのを待っていて、開いた瞬間に出ていってしまったというケースも聞きます。
好奇心があって外に出ては見るものの、初めてのものにびっくりしてパニックになってしまい家に戻れない。助けを求めるために鳴いたり、窓などの近くに戻ってくるということもできなくなって、そのまま隠れてしまったり移動したりして、迷子になってしまいます。
── ペットが迷子になる時期に特徴はありますか。
遠山さん:窓などを開けておくあたたかい時期は依頼が多いですね。冬は外が寒いので出にくいと思われがちですが、雪の中でも出てしまう子もいるので、1年中油断はできません。依頼は常にあるので、季節に関わらずペットがいなくなる可能性は高いと思っていただけたらと思います。
── 最近ではペット可の店も増えていますし、散歩やショッピング、カフェなどにペットを連れて外に行く方も多くなっています。
遠山さん:外の景色を見せてあげようと思って、外に出してあげる方もいますが、猫は散歩などに慣れていない子も多いので、脱走の原因になりやすいです。それに、猫は体が柔らかいのでハーネスから抜けてしまうことも多くあります。大きなトラックの音や、子どもが近づいていきたりするとびっくりして脱走してしまうこともあります。
── ペットの捜索を始めてから見つかるまでどのくらいかかるのでしょうか。
遠山さん:探し始めてから1〜3時間で見つかることもありますし、長くて数か月から1年ほどかかることもあります。何をしても見つからない、手がかりが掴めないこともあります。
最初は展開があまりなく公園にチラシを貼らせてもらったところ、たまたま地域の猫の世話をしている人が張り紙を見て、「この子、いまうちに来ているよ」と連絡をいただけたこともありました。自分たちだけではなく、地域の方にもご協力いただいて保護に繋がることもあります。
逆に犬の場合は、SNSの活用が重要になってきます。弊社代表の藤原が、情報拡散が一番いいとお伝えしているのですが、犬は走ってものすごい距離を移動できるので1〜2時間もあれば隣町まで行ってしまいます。
それに今は街で犬が1匹で歩いていたら、見かけた方が「あれ?」となりますよね。より多くの目撃情報を集めるのが大事で、昔はポスティングや張り紙もさせてもらっていたのですが、最近は張り紙も厳しくなってきましたし、飼い主さんご自身でSNSを活用することが効果的だということをお伝えしています。
飼い主の気持ちに寄り添って
── 遠山さんはなぜこの仕事を目指したのでしょうか。
遠山さん:小さい頃から生き物が大好きでした。手で触れたり、身近で見たりずっとしていたような子どもで、いつか動物に関わるような仕事がしたいと思っていたんです。
高校生のときに保護された犬や猫がいる地元の保健所に行く機会があったのですが、檻の中で何匹も一緒に入れられていたのを見ました。こういう思いをする動物がいるということを知ってから、困っている動物を助けられる仕事に就きたいなと思ったんです。
でも、自分に何ができるかはわからないままでした。たまたまそのとき、弊社代表の藤原が情熱大陸に出ていたのをテレビで見て、「この仕事をしたい」と思ったんです。居場所のない動物を1匹でも助けられる力になりたいと思って、連絡をしました。
── 遠山さんご自身もペットをたくさん飼っていたそうですね。
遠山さん:犬や猫のほか、家でカメやカマキリやトカゲ、鳥や魚も飼ったことがありますね。母は生き物が苦手なのですが、父が得意で。小さい頃から虫かごと虫網を持って外で虫取りをしていました。
父から最初に気をつけた方がいいものを教えてもらって、兄と一緒に山で虫取りをするのですが、しばらくしてからお互いにどんなものを捕まえたか見せ合うんです。土日はほとんど家におらず、結構な頻度で山に行っていました。
── ペット探偵の仕事を始めて3年弱経つそうですが、この仕事のやりがいはなんでしょうか。
遠山さん:やはりペットが見つかったときは「この仕事をしていて良かった!」と、やりがいをものすごく感じますね。飼い主さんから「遠山さんに来てもらえて良かったです」と言われることも嬉しいです。
私も飼い犬を逃してしまった経験があるので、飼い主さんの気持ちはわかります。辛い思いをされていると思うので、気持ちに寄り添っていきたいと思っています。決して責めることはせず、前向きになれるように、見つかったあとのことを考えてお声掛けさせていただくようにしています。
── 大切なペットを迷子にさせないために、飼い主が気をつけることはありますか。
遠山さん:「このくらいなら大丈夫だろう」とか、「この子は大丈夫」というちょっとした油断が脱走に繋がることを頭に入れていて欲しいと思います。「過去10年間、窓を開けていても大丈夫でした」とか、「いつも玄関を開けていたんですがこの日だけ出ていってしまった」という場合もあります。脱走はちょっとしたことで起きてしまって、そのあと一生会えなくなってしまう可能性があると覚えておいていただきたいです。
── ペットと飼い主の関係性を見ていてどう感じますか。
遠山さん:私もたくさん動物を飼ってきましたし、依頼される飼い主さんを見てもわかりますが、ペットというより家族の一員ですね。飼い主さんはいなくなったら、寝食もできなくなってしまうくらい心配ですし、じっとしてもいられずに探し回ります。
でもそれは、ペットにとっても同じで、飼い主さんと家がないと生活が送れませんし、食べ物も飲み物も十分にない状況では、どうしていいかわからなくなってしまいます。動物にとっても飼い主さんにとってもお互いに必要な存在だと思いますので、日頃から気を付けていただけたらと思います。
PROFILE 遠山敦子さん
1996年大阪府生まれ。幼少期を九州地方の離島で過ごし動物好きに。2020年TBS「情熱大陸」で紹介された藤原の迷子猫捜索に衝撃を受けペットレスキューに入社。女性ならではの細やかな感性を活かし、飼い主さんの不安に寄り添いながら、迷子になった動物の視点で現場をつぶさに探索し数々のペットを発見・捕獲している。
取材・文/内橋明日香 写真提供/遠山敦子