朝7時過ぎ、ぞくぞくと親子連れが小学校に登校する姿が。行き先は教室でなく、校門の目の前にある学童施設のスペース。朝早くからなぜ親子で登校するのでしょうか。

 

これぞ行政の仕事!わかりやすい申請書を書けば親子も安心に

朝から学校内で子どもを引き渡し教室へ送り出す

神奈川県・大磯町が始めた「朝の子どもの居場所づくり」事業は、登校開始の時間前から学校内に子どもの居場所を提供し、スタッフが登校の送り出しまでを見守る取り組みです。担当する大磯町役場子育て支援課・金子祥幸さんに話を聞きました。

 

—— どのような経緯で「朝の子どもの居場所づくり」事業は始まったのでしょうか?

 

金子さん:神奈川県の若手職員が6年前に行った提案がきっかけです。登校が始まる時間前に学童保育のスペースを開放して、児童に居場所をつくるモデル事業として始まり、大磯町も手をあげたものです。大磯小学校と国府小学校の2校で行われていて、子育て支援に重きを置く大磯町としては、その後も事業を継続しています。

 

朝の通勤時間が早く、子どもを家に置いて先に出る親の不安解消になる取り組みです。また、通勤の早い親と学校まで一緒に行き、夏の暑さや冬の寒さのなか登校開始の時間まで子どもが校門前で待つ必要もなく、保護者やお子さんにとっても安心できます。

 

—— たしかに親としては安心できますね。具体的にはどういった事業なのでしょうか?

 

金子さん:子どもの見守りが主体です。学童施設内で登校開始の時間まで本を読んだり、ゲームをしながら過ごせる「居場所」を提供しています。現在は、学童保育の委託先事業者からの支援員と、地域の有償ボランティアの計2名で子どもたちを見守っています。見守り事業のため、学童とは違って保育や教育を提供する場ではありません。

 

—— 誰でも自由に利用できるものなのでしょうか。

 

金子さん: 同校の児童であれば誰も利用できますが、事前登録が必要で登録保険料(年間300円)をいただきます。また、保護者が子どもを学校に送り届けることが前提になります。出勤が早いご家庭では毎日利用されている方もいます。また、朝から急なトラブルや会議などにより、単発で利用する方もいます。

 

現在は1校あたり40家庭ほどが登録、常時30名前後の子どもが利用しています。保護者もテレワークから出社形態に戻ったり、朝から忙しい方も増えたようで、ここ1〜2年で利用者は急増しています。

先生の心理的負担まで下げる事業に

—— 子どもの居場所づくりのメリットは、安全に朝の時間を過ごせる以外にありますか?

 

金子さん:子どもにとっては他学年やスタッフなどと交流することで、よい人間関係がつくれているようで、この事業があることで教職員の働き方改革の一助となっているそうです。

 

—— 先生方の働き方にも関わってくるんですね。ところで、大磯町の事業ということは、スタッフの費用もかかるわけですが、そのあたりはどうされていますか?

 

金子さん:神奈川県の補助金を活用させてもらい(事業の3分の2が補助金)、残りの3分の1は大磯町が負担しています。

 

—— 最後に課題はありますか?

 

金子さん:近年は利用者が増えているため、今後はスタッフを増やす必要性を感じています。町のホームページや広報でも募集の告知を出していますが、地域ボランティアの確保が難しいのが現状です。大磯町ならではの事業ですので、今後も地域の方の力をお借りできればと思います。

 

ただ、朝なので子どもたちも落ち着いていますし、提供する居場所も室内でケガするような場所でもありません。名簿上で来ている児童を管理し、安全に見守るのが役目になります。

 

 

 

「今日は一緒に遊んでくれてありがとうね」と話しながら、おもちゃを片づける小学2年生がいました。クラスは違うようでこの場所で仲良くなったそう。漫画や本を読む子、宿題をする子、おしゃべりにふける子、思い思いに朝の時間を過ごしていました。大磯町が6年続けるこの事業は親、子ども、先生にとっても貴重。地域行政の在り方さえ考えさせられる取り組みでした。


取材・文・撮影/西村智宏