髪パサパサ、爪が割れる、口内炎。いっけん関係なさそうな症状ですが、共通の原因は亜鉛不足かも。人の健康に大きく関係する亜鉛の存在。消化器内科医の工藤あきさんに聞きました。
「味覚障害や下痢も」亜鉛不足は見抜きにくい
── ビタミンや鉄分、カルシウムといった栄養素に比べて、正直なところ、亜鉛にはあまりなじみがありませんでした。いったいどんなはたらきがあるのでしょうか?
工藤先生:亜鉛は、タンパク質をつくるのを助け、からだの細胞が新しく生まれ変わる「ターンオーバー」に欠かせない栄養素です。
たとえば、爪や髪の主成分は、「ケラチン」というタンパク質です。亜鉛が不足すると、ターンオーバーのサイクルが乱れてケラチンの生成がうまくいかず、爪の割れや変形、髪のパサつきや脱毛があらわれてきます。
ちなみに、コロナ禍で症状のひとつとして話題となった味覚障害は、亜鉛不足で起こるケースもあります。味を伝える「味蕾(みらい)」という器官のターンオーバーが滞るためです。
そのほかにも、傷の治りが遅い、免疫力の低下、下痢、貧血、男性の生殖機能不全、発達障がいといった症状があらわれることがあります。
── さまざまなところに影響があるんですね。
工藤先生:症状が多岐にわたる分、「亜鉛不足が原因」と気づきにくいのかもしません。亜鉛の平均摂取量は、1日に推奨する摂取量を下回る調査結果もあり、亜鉛不足な方は多いと考えられます。
食品添加物は亜鉛を吸収する妨げとなるため、加工食品やレトルトを利用する機会の多い人は、亜鉛を十分吸収できていないとも考えられています。
お酒のつまみにもなり「亜鉛補充」できる食品
── 亜鉛を摂取するにはどんな方法があるのでしょうか?
工藤先生:亜鉛は体内でつくることができない栄養素のため、食べ物やサプリ・薬から摂取します。亜鉛を多く含む食材は、牡蠣、ホタテ、うなぎ、海苔、レバー(豚・牛・鶏)、赤身肉、卵黄、チーズ、カシューナッツやアーモンドなどのナッツ類などです。
100グラムあたりの含有量で比べると、牡蠣は圧倒的に多いです。また、亜鉛はビタミンCと一緒に摂ると、体に吸収されやすくなります。
「貧血になる可能性も」亜鉛の摂取で気をつけたいこと
── 牡蠣にレモンをかけるのは、理にかなっているんですね。1日にどれくらいの亜鉛を摂取すれば良いのでしょうか?
工藤先生:日本人の1日あたりの摂取量は、成人男性が11ミリグラム(上限40〜45ミリグラム)、成人女性が8ミリグラム(上限35ミリグラム)が推奨されています(※)。亜鉛は汗や尿から排出されるので、スポーツなど日常生活で汗をかきやすい方は、推奨量よりも多めに意識して補給しましょう。
また、お酒をよく飲む方も要注意。アルコールの代謝に亜鉛が使われますし、アルコールの利尿作用で尿の量が増えるため、亜鉛が排出されやすくなります。
── アーモンドやチーズなど、亜鉛を多く含んだおつまみを選ぶといいですね。
工藤先生:食事だけでたりない分は、市販のサプリで補給することもできますが、前述した通り、亜鉛には摂取量の上限が定められています(※)。過剰に摂りすぎてしまうと、銅の吸収を妨げて貧血を招くという具合に、ほかのミネラルバランスを崩す恐れも。
── 亜鉛が不足しても摂りすぎても、貧血を招く心配があるんですね。
工藤先生: 症状を改善したいのに、かえって悪化させてしまわないように、サプリの容量はしっかり守ってください。通常の食事で摂取する分には、摂りすぎる心配はほとんどありませんので、亜鉛を含む食材を積極的に食べるようにしましょう。
PROFILE 工藤あきさん
消化器内科医・美腸・美肌研究家。一般内科医として地域医療に貢献する傍ら、腸活×菌活を活かしたダイエット・美肌・エイジングケアにも尽力。テレビ、本、雑誌などメディア出演多数。2児の母。
取材・文/大浦綾子
(※)厚生労働省/「日本人の食事摂取基準」(2020年版)