『やさしく、つよく、おもしろく。』(ほぼ日ブックス)、『鬼の子』(小学館)など、人気作品を次々と手がけてきた漫画家・ながしまひろみさん。ながしまさんが読者に届けたいのは「心を撫でられるような感覚」。そして、漫画を描きつづけられるのは、うれしい“連鎖”があるから、なのだそうです。(全2回中の2回)
「心を撫でられるような体験」を
── ながしまさんの作品に触れていると、自分が子どもだった頃の日々を思い出したり、「この気持ち、知っているな」という感覚になったり、とても懐かしく思うことがあります。
ながしまさん:そのご感想はとてもうれしいです、どうもありがとうございます。そのままの体験でなくとも、わたし自身が感じたことのある気持ちや想いみたいなものをベースに描いていることが多いので、読者の方からの反響でもそう言っていただけると、心の奥のほうで分かり合えたような、すごく幸せな気持ちになりますね。
── ただ、懐かしくも「ほっこり」するだけじゃない、大事なものを受け取ったような感覚になる読後感も魅力のひとつだと思うのですが、なにか「届けたい」と意識していることはありますか?
ながしまさん:よく考えるのは、「いま、すごくしんどいな」と感じている人にも読んでもらうことができて、そういうときにそっと寄り添えて勇気づけられるようなものにしたいな、ということですね。わたし自身も、作品に救われるような気持ちになることはとても多いので。特に、紙の書籍であれば「ずっと、そばに置いておきたいな」と思ってもらえるものを目指して作っています。
あとは、ずいぶん前ですけど、子どもが絵本を読み聞かせてもらうのは「声と言葉で心が撫でられるような体験なんだ」という表現を聞いて、すごくいいなと思ったことがあったんです。そのときから、わたしも漫画や絵本やイラストを通して、「見ただけで心が撫でられるようなもの」を届けることができたら…というのは、ずっと思っていることですね。
最近は「そこだけにこだわりすぎると、作るものの幅が狭まってしまうかな」という想いもあって、気をつけているところもあるんですが、わたしの作るものの「軸」にはなっていると思います。
やさしい連鎖のなかで、作品を届けたい
── 次々と作品を発表されるなかで、作品との向き合い方や心持ちに変化はありますか?
ながしまさん:いちばんの変化は、1作目、2作目、3作目と重ねるごとに、独りよがりな気持ちで構えることはできなくなったこと。また次の機会をいただけるように、現実的に「たくさんの方に手にとってもらえますように」という想いを込めるようになりました。
技術的なところでいうと、最初はお話とも言えないような断片的な漫画が多かったんですが、いまはしっかりとお話を考えて、「ここで盛り上げて」「ここで締める」といったストーリーの展開も勉強しなきゃダメだな、と考えるようになりました。連載をまとめるときの踏んばりとか、単純な画力に関しては、少しは向上している気がするのですが。
以前は、「こういう作品を描きたい!」と思っても、それを思うように表現することができなくて、もどかしい気持ちもたくさんありましたが、少しずつイメージしたものが描けるようになってきていると思います。やっぱり「継続」「うまくいかなくても、頑張り続けること」が成長の近道なんだ!ということは、日々感じているので、ストーリーについても同じように努力していきたいですね。
──「シーン」だけでなく「物語」で、一人でも多くの人の心に寄り添いたいというお気持ちが、いま強いんですね。
ながしまさん:はい、まさにそうですね。やっぱり、もっともっとうまくなりたい、とか、もっともっと良い作品にしたい、という気持ちはすごく大事だなあと思います。そう思わせてくれるのは、漫画を描き始めた当初から応援してくださっている方の存在だったり、いつも読んでくださる方たちの声だったりして。
それがあるから「うまくなりたい」と思えるし、「うまくなりたい」と思えるから、描き続けることができるんですよね。そういう連鎖でいいものを作って、また「この人が描いたものを読みたい」と思ってもらえるようにこれからもがんばります。
PROFILE ながしまひろみさん
1983年、北海道生まれ。マンガ家、イラストレーター。著書に『やさしく、つよく、おもしろく』(ほぼ日ブックス)、絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)、『わたしの夢が覚めるまで』(KADOKAWA)など。その他、挿画や広告のイラストレーションも幅広く手がける。電子書籍『ちーちゃん』(C's Comics)も好評発売中。
取材・文/中前結花