人にはいろいろな側面があります。ただ、長年一緒に暮らしていると、「相手はこういう人」と思い込んでしまうのが夫婦の「あるある」かもしれません。

 

几帳面でアイロンがけも率先する夫を見ていると…

「夫は生真面目でいい人だけど、裏を返せば融通が利かない。ひょっとしたら要領が悪いと会社でも思われているんじゃないか?と考えていました」

 

笑いながらそう話してくれたのは、カオルさん(39歳、仮名=以下同)です。同い年の夫との間に7歳のひとり娘がいて共働き。どちらかというとカオルさんは家庭より仕事に比重を置きがちだそう。

 

「人材関係の企業に勤めているんですが、もともとやりたかった仕事だったし、30歳を過ぎてからより仕事が楽しくなった。出産後も早めに復帰しました。キャリアを積んでもっと自己実現したい。ずっとそう思っていたから、最初は結婚したくないと彼に言ったんですよ。でも彼は『僕が家庭を守る。きみは仕事優先でいいから』と言ってくれた。そうはいっても子どもを産んだらどうなるかと思っていたけど、夫は自分の言葉を守ってくれました」

 

子どものことは優先的に予定に入れるものの、家事はどうしても夫に頼りがちになります。几帳面な夫は、気になると夜中でも掃除を始めてしまうようなタイプ。

 

「適当に手を抜いて、週末にまとめて家事をやろうよと言っても、せっせとアイロンがけをしていたり…。そういう夫を見ていると、ときどきイラッとしました。もっと効率的にやればいいのに、この人は要領が悪いんじゃない?と、心の中で少しバカにしてもいたんです」

 

実直で誠実なのはいいけれど、「バカ正直」とか「クソ真面目」とか、どちらかというとそういう人なのではと思っていたそうです。

父が倒れたときの「夫の態度」に思わず感謝した妻

ところがカオルさんの気持ちを一変させるような出来事がありました。

 

「2か月ほど前、私の父が突然倒れて救急搬送されたと夜中に母から連絡があったんです。寝ぼけていたのもあって、どうしたらいいの?とあわててふためいていると、夫が『カオル、落ち着くんだ』と力強く抱きしめてくれた」

 

そしてすぐに車を出し、娘を連れて1時間かけて父が搬送された病院へ向かったのです。夜中に緊急手術がおこなわれ、未明になってようやく「手術は成功したけれど、まだ安定はしていません」と医師から告げられました。

 

「母は泣き出し、私もどうしたらいいかわからなくて右往左往していました。私はひとりっ子だし親戚も少ないので心細かった。しかもはたと気づいたんですが、その日の午前中、大事な顧客との会議があったんですよ」

 

すると夫は「きみは仕事に行っていいよ、娘の学校もあるし。今日は僕がここにいるから」と言ってくれ、朝一でカオルさんと娘を自宅まで送ってくれました。そして夫は再び病院へ。

 

「私は娘を学校に送り出し、出社して大事な会議も無事に終了。次への大きな仕事の見通しがたってホッとしました。昼に夫から連絡があって、父も意識を回復してもう安心だと」

 

そのときカオルさんは、夫に心から感謝の気持ちが沸き起こってきたそうです。

 

「無骨なまでに几帳面なだけの人だと思っていたけれど、いざというときここまで頼りになるなんて。長く一緒に生活してきて、夫の本質を見誤っていた、甘く見ていたとつくづく反省しました」

 

その日、夫は母を自宅に送って買い物に行き、食事まで作ってくれたと、あとから母に聞いたそうです。

 

「母は『あんた、あの人は一生大事にしないといけないよ』って。本当にそうですね。人をなめちゃいけない。そう思いました。このことは仕事にも通じる。この人はこんな人だろうと勝手に思い込んでいたら、あとで痛い目を見ると思いました。これからは夫にも他人にも、もう少し謙虚に接していこうと心に誓いましたね」

 

一緒に暮らしているパートナーの性格、もしかしたら「わかっているつもり」は思い込みかもしれませんね。


文/亀山早苗 イラスト/前山三都里