若手のうちからおじさん役を極めた元宝塚歌劇団花組の天真みちるさん。「スター役でなくても価値があったんだ」退団後、自分が築いてきた経験の大きさに気づいたといいます。

 

素顔はキュートな笑顔が素敵!「おじさん役」を極めた天真みちるさん

30歳でえた達成感「外の世界を見よう」と退団を決意

── 17歳で宝塚歌劇団に入団し、通常は大ベテランが担当していた「おじさん役」を若手のうちから演じ、異色のタカラジェンヌとして注目された天真みちるさん。30歳で宝塚歌劇団を退団されたそうですね。退団を決意するまでに、大変だったことなどはありますか?

 

天真さん:宝塚歌劇団は、毎年10代の子たちが入団してきます。だから20代後半になるとかなりのベテランとなり、舞台に立ちながら後輩を取りまとめることにもなります。そのとき、「この人は舞台人として尊敬できないな」と思われると、どんなにアドバイスをしても聞いてもらえなくなります。だから、団員をまとめる役割を担いつつ、役者としても実力をつけることがいままで以上に求められました。

 

── 自分の稽古にもしっかり取り組んで、まとめ役も担うのは大変ですね。

 

天真さん:もともと私はおじさん役ばかり演じていたから、2枚目役を目指している子たちからしたら、「天真さんのアドバイスを聞いていると、自分の目指している方向とはズレてしまうかもしれない」と考える人がいたと思います。全員をまとめる立場になるには、私のポジションでは説得力がないと感じることもありました。

 

それに、宝塚歌劇団のなかで、たくさんの「おじさん役」を演じて達成感もあったんですね。だから、退団して外の世界を見るのにいいタイミングだなと思いました。

退団後は制作会社の社員として働くように

── 30歳で退団後、芸能界や役者の道に進まなかったのはなぜでしょうか。

 

天真さん:私が演じたおじさん役は、宝塚歌劇団のなかでも特殊な役柄です。一般的な舞台の世界では需要がないと思ったし、十分やりきったと思ったから、もう一度同じことを繰り返さなくてもいいと思いました。それに、10代のころから過ごした宝塚歌劇団での経験はとても濃密でした。だから、退団したあとの人生は「余生」を送るものだと考えていました。

 

── 30歳から余生とは、相当長いですね。

 

天真さん:そうなんです。宝塚歌劇団のなかでは30歳はかなりの大ベテランです。だからものすごい年齢を重ねたように感じていました。でも、退団後に一般社会の年齢の感覚に戻ってくると「30歳から余生とは、あまりに長すぎない?」と気づいたんです。

 

宝塚歌劇団(東京宝塚劇場)での退団公演のときの楽屋入りの1枚。タンバリンもトレードマーク

── セカンドキャリアとして、エンターテイメント業界の制作会社に入社したのはなぜでしょうか?

 

天真さん:もともと、宝塚歌劇団に在籍していたときから、「私はこういうふうに演じたい」という思いが強かったんです。それで、演出家の先生と意見が分かれることも少なくありませんでした。

 

もちろん、役者として自分の意見を持つのは大切です。一方で、人がつくった作品に対して、こだわりを押しつけすぎるのも混乱の原因になるかもしれないとも感じました。だからまず、制作する立場に立ってみようと考えたんです。

 

実際に裏方の仕事をして、脚本・執筆や予算の組み方などを学び、舞台がどうつくられているかを経験してみたいと思いました。演者の立場ではなく、裏方として舞台がつくられている様子を見るのは興味深かったです。予算を削れば、その分見栄えのしないものなってしまうなど、実務的な部分をたくさん学びました。

「おじさん役」を評価する人の存在に気づき独立へ

──「おじさん役を極めた元タカラジェンヌ」としてエッセイも発売されましたね。

 

天真さん:「エッセイを書いてほしい」と依頼があったときは「読む人なんていないんじゃないの?」と不思議でした。これまで宝塚歌劇団出身の方で本を出版されているのは、ほとんどがトップスターの方でした。トップスターたちは、血のにじむような努力を重ねてきた方ばかり。

 

そうしたすばらしい方たちに比べ、私の経験はそれほど特別なものではないと思っていたんです。宝塚歌劇団在籍中は、「自分が新たな道を切り拓いた」と思っていたわけではありません。

 

でも、退団して外の世界に出てみると、「おじさん役を極めた天真みちる」を知ったうえで仕事を依頼してくれる人が多かったです。私が若いうちからおじさん役を演じ続けたのは、華やかな宝塚歌劇団のなかで生き残るための苦肉の策でした。でも、こうした人生を知ってもらうのもありかもしれないなと考えるようになりました。

 

退団後に取材やテレビ出演の打診があり、初めてたくさんの方がおもしろがってくれていたんだと気づかされました。「おじさん役を極めてよかったな」と感じるようになったのは退団後ですね。

 

── 現在は、制作会社を退職されてご自分の会社を立ち上げました。

 

天真さん:会社員時代から「天真さんにこの仕事をお願いしたい」と名指しで依頼いただく機会が多かったんです。でも、組織で働いていると業務に追われるうえ、仕事を受けていいか会社に許可をとる必要もありました。この先、何十年後も名指しでお仕事いただけるようにするためには、いま目の前の依頼を受けるべきだと考えました。そうしたら、独立したほうがいいと決断しました。

 

会社員のときに開催したディナーショーのポスター撮影時のオフショット。このディナーショーが終わったあとに独立した

── 実際に独立してみていかがでしょうか?

 

天真さん:仕事をするかどうか決めるのは自分になり、楽になりました。その一方で、責任も全部取る必要があり、身が引き締まる思いです。宝塚歌劇団在団中や会社員のときは、「組織のなかの一員」という枠のなかで、自分がどうしたいかを考えていました。それが、独立後はすべてが自由で選択肢が無限にあります。

 

「世界ってなんて広いんだろう」と興奮すると同時に、自分の好きなように進路を選べる楽しさもあります。これからどんな道を歩んでいくのか、私自身もワクワクしています。

 

PROFILE 天真みちるさん

2006 年宝塚歌劇団に入団、花組配属。老老(若は皆無)男女幅広く男役を演じる。2018 年 10 月に同劇団を退団。 2021年8月に「たその会社」設立。代表取締役を務め、「歌って踊れる社長」に。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/天真みちる