料理家として日々新しいレシピを考案している栗原心平さん。昨年はなんと700ほどのレシピを作ったそう。栗原さんが考える「おいしい料理に必要なこと」とは?(全4回中の3回)

多忙ななかで年間700のレシピを生み出す秘訣

── 料理家としての栗原さんのこだわりを教えてください。

 

栗原さん:料理家としての仕事はレシピを作ること。再現性が高く、かつ家庭で作ってもらう頻度が高くないと、レシピとして成功しているとは言えません。

 

たとえばクリスマス料理は特別なものですし、モチベーションとしてクリスマスは意識するけれど、普段のレシピでは奇をてらったものはやりませんし、プライベートで作る料理も奇抜なものはほとんどありません。もちろん猪が丸ごと1頭届くようなことがあれば、料理家としての腕の見せどころと思っていろいろやるかもしれませんが、そういう機会はまずないので(笑)。

 

普遍的でありながらおいしさに工夫のあるもの。プロセスをひとつ変えるだけで味の違いを出す、これがレシピ作りで心がけていることです。

 

レシピ作りで心がけているのは「普遍的でありながらおいしさに工夫のあるもの」( 栗原心平「ごちそうさまチャンネル」より)

── 毎日レシピを考えているとのことですが、そんなに頻繁に考えなければいけないものなのでしょうか?

 

栗原さん:ありがたいことに、そんなに頻繁に考えなきゃいけないくらい、今、お仕事をいただいています(笑)。

 

── アイデアが出てこない…なんてことはないのでしょうか?

 

栗原さん:日にもよりますが、アイデアが出ないってことはなくて。ただ、レシピとしてまとまりきらず、それが味に出てしまうということはありますね。まさに今日の午前中の試作はそんな感じでした。昨年は特に大変で、今まででいちばん多くレシピを考えた年だったんじゃないかな。全部で700くらいのレシピを考えました。

 

── 1年分のレシピが余裕でまかなえそうです。確かに季節やテーマもあるので、求められるレシピもキリがなさそうですね。

 

栗原さん:最近は日常的に作れるレシピをお願いされることが多いです。和食だったら、酒、みりん、醤油、砂糖、塩、味噌がベースで、そこに酢を加えるなど、味の変化を出します。僕、けっこうそういうことを考えるのが得意なんです。比率によっても全然変わるし、出汁のベースや使う食材によっても味は変わります。

 

レシピを考えるのは大好きですし、生みの苦しみとも無縁なので楽しいです。大変なのは時間との戦いです。たとえば、今日の午前中の試作テーマが届いたのは昨夜遅くでした。昨日は夕方からずっと会議。その後会食があって考える時間がまったくなくて。経験上、帰りのタクシーの中で酔っ払った状態で考えると、ぼやけたレシピになりがち。でもそんなときにもいいアイデアが浮かんだりするから、ボツにはならず、ぼやけを修正し使えるレシピに昇華させます。

 

栗原心平さん
多忙であっても「レシピ作りは大好きだし楽しい」という栗原さん
── 生みの苦しみとは無縁なのがよく分かりました。

 

栗原さん:自分が考えたレシピを再現してもらい、おいしかったと言われるのがすごくうれしい。おいしくなった理由が僕のひと工夫のポイントだったりして「あのひと工夫でおいしくなった」と言われたら、もうめちゃめちゃうれしくなります。そのうれしさを感じるために(レシピ作りを)やっているところはあると思います。

「相手のことを考えた?」料理がおいしくならない理由

── 栗原さんが思うおいしい料理を作るために必要なこととは?

 

栗原さん:相手のことを考える気持ちかな。

 

── 気持ちだけではおいしくならないものもありませんか?(笑)

 

栗原さん:たとえば「せっかく作ったのに」とか「何で食べないの?」などと口論になるケースってよく聞くじゃないですか。出されたものにお醤油をかけて食べて怒られた、なんて話も聞きますよね(笑)。

 

栗原心平さん
おいしい料理に欠かせないのは「相手のことを考える気持ち」(栗原心平「ごちそうさまチャンネル」より)

でも、それは味見や調味料を入れるタイミング、何かしらおいしくならなかった理由があるはずです。「温かいまま提供できたか?」「味見はちゃんとしたか?」と考えてみると、おいしくならなかった理由がきっと分かるはず。

 

実は味見をする人はびっくりするほど少なくて。相手のことを考えていれば「おいしくできたかな?」と確認しますよね?その確認が“相手を思う気持ち”ということです。

国分太一さんの心からの「おいしい」が聞きたくて

── 栗原さんは味見をするイメージが強いです。よく観るシーンだなって。

 

栗原さん:必ずしています。味は状況によって変わるもの。いつもと違う環境での料理なら、むしろ多めにしたほうがいいくらいです。

 

── ちょっとおしゃべりしたら1分多く焼いていたとかありますよね。

 

栗原さん:「男子ごはん」はむしろそんなのばかりです(笑)。だから不安になって味見しています。国分(太一)さんの“おいしい”が、本心なのかどうかは僕には分かるようになったので、心からの“おいしい”を言ってもらえない日は「今日は負けだ…」って思っちゃいます。

 

 

PROFILE 栗原心平さん

料理家、(株)ゆとりの空間 代表取締役社長。1978年生まれ、静岡県出身。2012年8月より「男子ごはん」にレギュラー出演中。登録者数20万人以上の公式YouTubeチャンネル「ごちそうさまチャンネル」や小中学生対象のアーカイブ動画視聴型のオンライン料理教室「ごちそうさまクッキングスクール」を主宰。一児の父。新刊『栗原心平のキッズキッチン』(世界文化社)が発売中。

 

取材・文/タナカシノブ