共働きの場合、家事や育児の分担は夫婦のもめごとの原因となりがちです。相手の状況を見ながら分担の割合を決める夫婦がいるなか、いつのまにか分担が逆転した夫婦がいます。

 

家事も担う妻が妊娠「誰か助けて〜」状態だった

2歳年下の夫のと結婚生活が13年目に入ったマサヨさん(42歳、仮名=以下同)。当初は彼女が家事をほぼ担当していたそうです。

 

「仕事をして帰ってきてから、夫の好物を作って。深夜か早朝に下ごしらえすることも多かった。あのころは夫のために凝った料理を作っている自分が好きだったんですよ(笑)」

 

結婚して半年後には妊娠が判明。つわりで苦しいときは夫がよく率先して、食べられるものを作ってくれたそう。

 

「30歳で出産して、育休中にまたも妊娠。年子で産めば、あとからきっと楽になると信じて産みました。2人目の出産後は育休もろくにとらずに仕事に復帰。子どもには酷な言い方ですが、私は育児より仕事を選んだのかもしれません」

 

ちょうど仕事がおもしろくなってきた時期でもあったと彼女は言います。子育てと日常生活を維持するために、ふたりの両親やきょうだい、友人や近所の人に至るまで、ありとあらゆる人の助けを借りました。

 

「いつも“誰か助けてー”と言っていました。もちろん、私が早く帰れるときは飛んで帰りました。夫は会社が近かったので毎日のように保育園に迎えに行ってました。下の子が3歳になったころから、異動があって急に仕事が忙しくなりました。自分がど真ん中で仕事をしなければいけない状態は、ものすごく楽しくて…」

 

子どもが小さいのだからと言ってくれる同僚もいましたが、「いいの、いいの、大丈夫」とみずからどんな仕事も引き受けました。

洗濯機の買い換えにすら気づかなかった妻

それから6年ほどたち、コロナ禍に入ってマサヨさんは、はたと気づきました。

 

「自宅勤務になって、たまには洗濯でもしようと洗濯機の前に立ったら、いつの間にか洗濯機が変わっていた。びっくりしましたね。夫によれば“数年前に買い換えたのを忘れているんじゃないか”と。つまり、私はそれほど洗濯をしていなかったわけで…夫がやっていたんです(笑)」

 

家に帰ってきても、仕事のことばかり考えていたマサヨさん。アイデアがひらめくと、家にいても持ち歩くメモ帳に書いたり、最近はスマホに入れたり。夫に仕事の話をしてヒントをもらったことも多々あります。そういうことは覚えているのに、洗濯機を買い換えたことなどまったく記憶にありませんでした。

 

「義母や実母はいまも手伝ってくれますが、家事の9割は夫がやっていたんです。『ごめんね。そしてありがとう』と心から感謝しました。すると夫は、『マサヨちゃんは、何かひとつのことを考え始めると他に目がいかなくなるでしょ。その集中力をすごいなと思って尊敬している。いまは僕が家のなかのことをやろうと思って』と言うんですよ。とくに家事分担を話し合ったわけでもないのに、私の状況を見て家事をやるようになって、どんどんスキルが上がっていったんでしょうね」

 

いまは毎日出社し、残業や出張も増えたマサヨさん。夫も子どもたちも、「ワーカホリックのママ」を温かい目で見てくれているそうです。

 

「夫は“僕は仕事そこそこで、子育てのほうが楽しい”と言っています。男女関係なく、向き不向きがあるんでしょうね。この夫でいなければ私は仕事を続けてこられなかった。ただ、以前と違って、いまは毎日、夫に“ありがとう”と、心から感謝の言葉をきちんとかけています。私ができないことをしてくれているんだから」

 

お互いに自分のできないことをしてくれる相手、自分の持っていないものを持っている相手に感謝と敬意をもって接することが、夫婦の信頼関係のベースなのかもしれません。


文/亀山早苗 イラスト/前山三都里