2人の息子さんを育てながらカーリングを続け、ロコ・ソラーレの代表理事も務める本橋麻里さん。「子育てを通して生きやすくなった」理由を伺いました。(全3回中の3回)
子育てを仕事にも活かして
── 子育てと仕事の両立は大変なことも多いと思います。
本橋さん:毎回ハラハラです。「この日だけは熱出さないで」というときにピンポイントに来ますよね。子どもに風邪をひかせてしまったことにも落ち込んで、「あのときのあれが悪かったのかな」って。でもそのおかげでトラブルへの対応力が身についたように思います。
起きてしまったらもう仕方ない。「最近バタバタしていたから休めってことかな」「私の緊張が子どもにも伝わっちゃったかな」と思えるようになったので、だいぶ変わりましたね。
── ポジティブに変換させる。
本橋さん:自分の気持ちを切り替えることには苦手意識があったのですが、子育てで叩き込んでもらえたなって。アスリートは自己管理をしなくてはならないのですが、自己管理の対象が増えていくというのも新しい感覚でした。
体調を崩させない、怪我をさせないという心がけはそのままチームにも応用できます。子育てを通じて、自己管理と人の管理に気配りをすることは自然と身についていたんですが、これって社会にとっての強みだと思うんです。
トラブルへの対応力、柔軟性、マルチタスク。この3本柱は子育てからそのまま応用できます。きっと子育て中に仕事を始める方、子育てがひと段落してから仕事を始める方にもきっと「わかる」って思ってもらえるんじゃないかなと思います。
── わかります(笑)。
本橋さん:それに時間の使い方や優先順位のつけ方も早くなりました。もう、何をするにもバババババって。ゆっくりふわふわしている暇がないんです。手の抜いていいところ、それではダメなところもわかってきて、物事の緩急もつけやすくなりました。私は子育てを経て生きやすくなったと思います。
仕事も子連れで
── 現在、カーリングを続けながらロコ・ソラーレの代表理事も務めています。1日のスケジュールはどんな感じでしょうか。
本橋さん:社員が少ないので、やれることを全部やっています。ある程度育ったら抜けるというスタンスですが、プレーは10歳下の子としていて、トレーニングも一緒にしています。
シーズンオフだと、午前中にトレーニングをして、メールチェックや打ち合わせ。小学生の長男が帰ってくるタイミングで家に帰って作れるときに夕飯を作っています。そこから、また仕事に戻ります。
シーズンインだと遠征に子どもを連れて行くこともあります。夫の都合がつくときは、長男をお願いして、私は次男を連れて行く、と手分けすることも。基本的にシーズンに限らず、1日中バタバタしてますね。
子どもたちと一緒に営業や挨拶回りや活動報告会なども行きます。スポンサーの皆様も温かく迎えてくださって。選手全員と、うちの子のためにジュースを準備してくださって。みんながお茶を飲んでいるなか、端っこでオレンジジュースを飲みながらお菓子をもぐもぐ(笑)。こういう環境で仕事をさせていただけてありがたいです。
── 仕事中に息子さんたちは「もぐもぐタイム」(笑)。
本橋さん:ありがたいですね。一緒に仕事に連れて行っているおかげで最近は、私が家にいなくてもこういうことをしているとわかってきているようです。
── チームをまとめるうえで心がけていることはなんでしょう。
本橋さん:すべきことはそれぞれにあるのですが、基本的にはできることを見つけて実行するというのを全員がしてくれるので成り立っています。チームを最初につくったときから、個性や考えを認めるというのは徹底してきました。
チームでそれぞれのカラーを持ちながら、ひとつの目標をクリアしていく。トップダウンで、誰かに従うというものではなく、ひとりひとりが自立できるような人間、選手をつくっていくという考えで、自分の核となるものを構築していくことを心がけています。
イエスマンが欲しいわけではなくて、あなたの考えが聞きたい。そこから何を目標にしていくかを組み立てていきます。結果を求めるよりプロセスを掘り下げることを徹底していますね。
あとはファミリーファーストです。どんなことがあっても家族を大事にする。海外のコーチもいますし、私も子育てをしていますので、その価値観を広めたいと思っています。家族がピンチのときは海外にいたとしても帰国しても大丈夫です。アスリートである前に家族の一員なので、最優先にしてほしい。私が遠征に子どもを連れて行けるのもそうですが、自分のベストにチームが合わせていく形です。
── 男子チーム、ロコ・ドラーゴが発足しました。
本橋さん:小さい頃から地元で活動していて、私たちもよく知っていたのですが、年齢制限でジュニアが終わってしまって、これから男子の一般の世界に入るタイミングでした。掲げたゴールに対して自分たちで舵を切れるようなサポートがないと世界では戦っていけません。
彼らは目が輝いているし、日本初や世界初のことをこの子たちならできるんじゃないかと直感で思いました。みんなをワクワクさせるようなことをしてくれそうだなと思っています。
19歳、20歳なので、私から見るとお母さんと子どもみたいな感じ(笑)。いい子たちです。カーリングが好きなことも伝わってきますし、夢に挑戦する姿は見ていて元気をもらえます。男子カーリングは女子より目立たないので、日本の男子カーリング界を牽引して欲しいですし、世界一を目指して欲しいです。「取りに行くよ!」と言っています。
彼らはそれをプレッシャーに感じていなくて、やる気に変えているのがすごいなと思います。戦う準備ができていて頼もしいですし、個性豊かでタイプが4人とも違うので面白いです。カーリング人口も徐々に増えてきていますが、男子も増やしていきたいですね。
── 今後の目標はなんでしょう。
本橋さん:カーリングがライフワーク、趣味が仕事になってしまったのですが、もう趣味が仕事でいいかなって。私は、趣味と趣味が混ざっていくことで人生が豊かになっていく感覚があります。
夢を持ってチャレンジすることって人生の醍醐味だと思うんです。カーリングを通して、そういう姿勢や明るいニュースを届けられたらいいなと思っています。
PROFILE 本橋麻里さん
1986年生まれ。「チーム青森」のメンバーとしてトリノ、バンクーバーオリンピックに出場後、故郷で「ロコ・ソラーレ」を結成。平昌オリンピックでは日本カーリング史上初の銅メダルを獲得。現在は一般社団法人ロコ・ソラーレの代表理事を務めながら現役選手として活動。
取材・文/内橋明日香 写真提供/本橋麻里