出産を機に静岡に移住した北陽の伊藤さおりさん。未知の土地で実家も遠い。孤独を感じた日もあったと言います。(全5回のうち3回)
旦那が帰ってきたときに限ってご機嫌とか
── 現在、静岡にお住まいですが、2010年の結婚と同時に静岡に移住されたのでしょうか?
伊藤さん:結婚して数年間は、私は東京、旦那は仕事の都合で静岡と、別々に住んでいたんです。その後、妊娠が分かって家族3人でいられる場所がいいねとなって、私が静岡に行くことになりました。妊娠中から出産まで東京にいましたが、出産から1週間後、病院の退院とともに新生児を連れて、いきなり静岡の生活がスタートした感じですね。
── 慣れない土地での子育ては、いろいろ大変そうです。
伊藤さん:今だったら、親に頼れる人は頼ったほうがいいって言えるんですけど…。私は里帰りをせず、静岡でいきなりワンオペがスタートしたので、けっこうきつかったです。
── あえて、ご両親に頼らなかった、ということでしょうか?
伊藤さん:親も高齢だし、当時は親に頼らなくても大丈夫だろうって、思っちゃったんです。でも、いざ子育てがスタートすると想像以上に厳しかった…。うちは基本的にワンオペなんです。
旦那は、家にいるときはすごく子煩悩ですが、いつも仕事が忙しくて、ほとんど家にいないんですよ。2014年8月に出産しましたが、旦那は10月からバレーの試合が始まるため、木金土日は遠征で家にいない。火水は、遠征はないけど遅くまで残業しているし、月曜は唯一休みですが、だいたい仕事が入ってますね。
1人で子どもを見る時間が大半で、子どもが泣きやまず困ることもしょっちゅう。でも、旦那が帰ってきたときに限って子どもがご機嫌とか。「いちばんきついときを見てないじゃない」って思うこともありました。
結局、静岡に住んでも旦那は帰ってこない。実家は遠い。一方、もともと静岡に住んでる方は、親が近くにいたり、同居している方もけっこう多くて、すごい孤独を感じちゃった。よく、ニュースで「ワンオペ」って言葉を聞いてはいたけど、周りでこういう人はいるのかな?…って思っていたら、まさに自分がそうだったって。
── 子どもは、急な体調不良もありますよね。
伊藤さん:赤ちゃんのときは、特に不安でした。自分と子どもしかいない空間で、命を守らなきゃって。子どもに対して知識がないから、ちょっと吐くだけでも心配するし、頭の形とか大丈夫なのかってテンパるとか。寝ているときも、赤ちゃんが生きてるのか心配になって、ティッシュを握って子どもの鼻に当てて、ファーってなったら、安心だとか…。
あと、夜間や誰にも聞けないときは、#8000という「子ども医療でんわ相談」があって、小児科医師や看護師さんが子どもの症状について相談に乗ってくれるんです。夜とか不安なときも、よく頼ってました。
自分の子どもなのに、あれこれ言われても
── 初めての育児だと、知らないことも多いでしょうし。
伊藤さん:はじめは、育児書もたくさん読み漁って、いろいろ勉強しました。でも、途中からこうしたほうがいい、ああしたほうがいいって言われすぎて、違和感を覚えたんです。育児書って、本を書いてる人の考えじゃないですか。教育系の本もそうですけど。
自分の子なのに、人の意見ばっかり参考にしてるのも嫌になっちゃったんですよね。それなら、自分の目で見て、自分で感じてやってみようと。間違ってるかもしれないけど、まずは自分でやってみようってある時期から切り替えたんです。子どもが1歳を過ぎたくらいですね。
── 子育てをするうえで、周りで話をする人はいましたか?
伊藤さん:強いて言えば、静岡に行った当初は、旦那の会社の社宅に住んでいたので、旦那の友達の奥さんたちも近くにいたから、助けられた感じはあります。海外で誰も話す人がいないような環境ではなかったです。でも、家の中ではやっぱりワンオペで。子どもといる時間はとても幸せですが、大人ともっと会話をしたかったっていうのはありますね。今思えば、親に頼るとか、1人で抱え込まないようにしてほしいって周りの人に伝えたいです。
PROFILE 伊藤さおりさん
1974年生まれ埼玉県出身。北陽のメンバーとして活動。YouTube「北陽チャンネル」や静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」でも活躍中
取材・文/松永怜