背が低い、言葉の発達が遅い。大きくなれば、他の子より勉強ができない。我が子を他の子とつい比べてしまうのはよくあることです。産まれたころから、子どものことで一喜一憂するのが親というものですが、それを少し冷めた目で見ている夫がいます。
ほかの子とくらべたがる妻「うちの子はダメかも…」
結婚して12年たつシンジさん(43歳、仮名=以下同)は、同い年の妻と、10歳の長男、7歳の長女と暮らしています。
「家庭はそれなりにうまくいっていると思いますが、妻の子どもたちへの考え方が理解できないことがあります。小さいころから、よその子とくらべすぎるんですよね。それで彼女自身が振り回されてしまう。長男は言葉が出るのが遅く、妻は非常に気にしていました。保育園で先生とその話をして帰宅したときは『もう、ダメだわ。よその子はみんな話すことができるのに、あの子はできない、将来がない』とまで言い出して。結局、2歳半になって急に言葉が出て、そこからはおしゃべりな子になりました」
もともとシンジさんは、子どもを長い目でゆるく見守っていこうというスタンスでした。でも妻は、いま、他の子と同じかそれ以上でなければ安心できないと言い張るのです。
「彼女は『手遅れになる。周りと比べてできそこないの子をもつのはつらい』と。そんな言い方はないですよね。みっともないとも言っていました。誰がみっともないと思うの?と聞けば、『世間』だと。『きみがよその子と比べて、勝手に落ち込んでいるだけじゃないの?』と言ったら激怒されましたね」
それでも小学校に上がる前までには、体の大きさも運動も知能も「ほぼ人並み」になりました。すると妻は急に長男を溺愛するようになっていきます。
絵ばかり描いて勉強しない子どもに強くあたる妻
長男が小学校に入ると、妻は「勉強はできるはず」と期待していたようです。ところが、長男は絵を描いたり見たりするのが大好きで、勉強もスポーツもいまひとつ。
「おさまっていた妻の『よその子と比較する症状』がひどくなっていきました。『どうしてあなたは勉強しないの、やらないからできないんでしょ?お隣のお友だちなんて、前は勉強ができなかったのに』と声を荒げて息子を叱るんです。まるで『お父さんの子だから勉強できないのよ』と言われているような気もして…。というのも、妻は僕より偏差値の高い大学を卒業しているので」
このままだと子どものみならず、自分のメンタルも危ういと感じたシンジさんは、「ちょっと子どものことを話し合おう」と提案しました。
ところが、「ろくに子育てしてないあなたには何も言う資格がない」と言われる始末。
「そういう問題じゃないと何度も言っています。母親から他の子と比べられ続けて、褒められずに育つ息子が不憫でしかたがないから、もっと子どもの長所を見つけて育てたほうがいいと思う、とも言いました。すると『競争心がない子は社会から落ちこぼれるの。いまから負けず嫌いの気質を育てないと、あの子は生き抜いていけない。どんな場でも一番になろうとする気概を植えつけたい』と。息子は優しい性格で、誰かを出し抜いたりできないのはあの子のよさ。長所を伸ばそうと話す僕と、何が何でも一番を目指す妻との間で、息子も混乱している感じですね」
「息子が生き生きしていることが大事」と見守る夫
妻に任せているわけにはいかないと、最近、シンジさんはよく長男を連れ出すようになりました。長男が大好きな絵を見せに美術館につれていったり、川のある風景を写生したいと言われてドライブしたり。
「息子が生き生きと絵を描いているのを見て、やっぱりこの子にはこれが合っているんだと思いました。好きなことがあるっていいことですから。勉強はそこそこでいい」
これからもバトルが続くかもしれませんが、シンジさんは息子の味方でいるつもりです、と笑顔を見せました。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里