映画や演劇に興味があって、早稲田大学に入ったと語る、相席スタートの山﨑ケイさん。大学生活に期待を寄せて入学したものの、思い描いていたキャンパスライフとは大きくかけ離れていたといいます。(全4回のうち1回目)

休み時間に雑談したり、ランチする友達はおらず…

── 早稲田大学出身だそうですが、学生生活はいかがでしたか?

 

山﨑さん:早稲田は映画や演劇が盛んなイメージがあって、何かお芝居に関わることができたらいいなと思って入りましたが、大学で友達がひとりもできなかったですね。入学式は出ましたけど、卒業式は友達がいなかったので、出ませんでした。

 

── たとえば、サークルや部活動など入ったりはされたのでしょうか?

 

山﨑さん:入学していろいろな劇団のサークルを見に行きましたが、自分が入ってみたいと思えるようなサークルには出会えなかったんです。お芝居を学びたくて受験勉強も頑張ったのに、思うような時間が過ごせなかった…。少し、燃え尽き症候群みたいな感じだったと思います。

 

でも、2年生になって、先輩が誘ってくれた演劇系のサークルに入ってからは、サークルには居場所ができました。

 

ただ、サークルに先輩と後輩はいましたが、同級生はいなかったんです。結局、授業に一緒に出るような同級生の友達がいなかったので、誰かと一緒に遊びに行くとか、休み時間に雑談をするような友達もいないし、ランチもいつもひとりでした。学食は、グループで楽しく過ごす人たちが集まっていたので避けて、空いてる教室を探すんです。ひとりでお弁当を広げて食べていると、大学には思想が強い人もいて「憲法9条について、どう思いますか?」とか、突然話しかけられたりして。

 

── 自分から、同級生に話しかけるようなことは…?

 

山﨑さん:私は中高一貫教育の学校でしたが、中学1年生から決まったメンバーと6年間ずっと一緒にいたせいか、友達の作り方が分からなくなっちゃったんです。大学では、誰かに話しかけられたら仲良くしようと思ってたら、誰からも話しかけられないまま4年間過ぎていって。

 

── 授業やテストなど、何かわからないことや困ったりすることもありそうです。

 

山﨑さん:だから、めちゃくちゃ出席しました(笑)。テストはノートの持ち込みやレポート提出で何とかなったとしても、劇団サークルの公演で授業に出られない日もあるんです。代返してくれる友達もいないので、自分が頑張って出るしかない。

 

ただ…代返だけお願いするとか、ノートの貸し借りだけするような友達って、もともと自分のなかでしっくりこなかった感じはあります。大学生になるまで、狭く深い友達つき合いしか経験してこなかったので、たいして仲が良くないのにノートを見せるとか、その場だけの友達みたいなノリが馴染めなかったというか。「それって友達…?」みたいな、利用されてる感じがしちゃって。

 

当時はすごい尖ってたんです。誰かに代返を頼まれたら、ノーとは言わなかったですけど、自分から他の人には頼めなかったですね。

楽しいキャンパスライフを期待していたはずが

── では、大学生活を満喫していそうな、キラキラした大学生を見てどう思いましたか?

 

山﨑さん:憧れはなかったです。どっちかっていうと「はいはい。大学生活満喫してますね〜」って、醒めた目で見てました。自分も同じ大学生だったんですけど(笑)。

 

今、この歳になったら、絶対キラキラしてる側のほうが楽しかっただろうなって思いますけど、当時は尖ってたんで。逆に「私はあの子たちとは違う…!」って負の感情がエネルギーになっていたような気もしますね。

 

── エネルギーになるほど、相手を気にしていた、ということでしょうか…?

 

山﨑さん:わかりやすい例で言うと、たとえばハロウィンとか街中で盛り上がってる人たちって、場合によっては批判されやすいと思うんです。でも、批判する側は、相手をめっちゃ見てますけど、盛り上がってる側って批判する側を見てないですよね。同じように、もし自分がキラキラした側にいたら、批判する側の人を気にならなかったかもしれない。でも、自分が批判する側にいるもんだから、相手が気になっちゃって粗探しをしちゃうとか。

 

── 当時は、ご自身が尖ってる、という意識はありましたか?

 

山﨑さん:なかったです。あの頃は、自分が正しいと思ってましたから。でも、尖ってる意識はなかったけど、卑屈だったと思います。自分も大学に入学したときは、楽しいキャンパスライフが送れると期待してたのに、そうならなかった。だから、卑屈になることで自分を支えてたんですよ。

 

── 大学以外の生活はいかがでしたか?アルバイトなど、外でのつき合いはあったのでしょうか?

 

山﨑さん:2年生になる頃には、映画館でバイトをしていました。映画館なら、自分と似たような演劇好きな人が集まっていそうだし、ここなら友達ができるかもってちょっと期待して入ったんです。実際、今でもつき合いが続いている友達ができたし、すごく楽しかった。時給が安くても、得るものが大きかったのでとても良かったですね。

 

── その後、大学は4年間で卒業されました。

 

山﨑さん:卒業式には出なかったんです。最後まで友達がいなかったし、知り合いも皆無だったので、ひとりで袴を着てもしょうがないと思って。

 

卒業式の日に、なんとなく家でテレビを見ていたら、TBSの『ジャスト』っていう番組が最終回だったんです。三雲孝江枝さんとか、安住さんが出ていて、キャストも最終回っていうことで泣いてて。テレビを観ながら、私も一緒に泣いてました。家でテレビを観ながら1人で泣いて…それが卒業式の日の思い出です。

 

今思えば、大学で友達といろいろな話をしたり、卒業旅行に行ったりできたらなって思うことはあります。私は大学ではそういう時間を過ごせなかったけど、今を充実させられたらなと。

 

PROFILE 山﨑ケイさん

千葉県出身。2013年山添寛と相席スタートを結成。趣味は旅行、食べ歩き、料理、他人の恋愛の悩みを解決すること。

 

取材・文/松永怜 撮影/長谷川裕之