1985年に「ダンシング・ヒーロー」が大ヒットを記録し、2017年の再ブレイクでも話題になった荻野目洋子さん。最近はヤングケアラーに関する情報発信をはじめ、また違った取り組みもはじめています。時が過ぎた今だからこそ、思うことがあるそうです。
「ダンシング・ヒーロー」は大ヒットしたが
──「ダンシング・ヒーロー」は大ヒットしましたが、デビューから約40年経った今だからこそ、思うこともあるとか。
荻野目さん:代表曲と言える曲を持たせてもらって、とてもありがたいと思っています。でも、私が書いた曲ではないんですよ。カラオケで、たくさんの方に歌っていただいても私には印税は入らない。お金の話だけでなく、自分の気持ちや感じてきたものを、もっと客観的に表現することも大切なのかなと思っています。
── 自分の言葉で伝えたい。
荻野目さん:変な話、お金を出して作詞作曲を誰かに依頼することはできますよ。でも、自分のなかから出てくるものを表現したくて、ここにきて自分で作詞作曲したアルバムを初めて作ったんです。ライブを見にきてくれるお客さんが一緒になって、手を叩いてハイテンションになれるとか。バラードを歌ったときに、同じように年齢を重ねてきて、人それぞれに感じることがあったり、共感して欲しいっていう気持ちが強くありますね。
── そう思うような、きっかけがあったのでしょうか?
荻野目さん:ここ数年のコロナ禍で、娘たちが聞いてる音楽…、洋楽や邦楽、K-POPとか、この人たちはこんな気持ちで作ったとか、娘たちが教えてくれるんですよ。ただ曲を聴くだけではなく、そこに行き着くまでのプロセスや思いを聞いているとさらに応援したくなるし、そのアーティストを支えたくなるんだなって、娘たちの話を聞いて思ったんですね。私ももっと、表現したいと思いましたね。
ヤングケアラーの子どもにアクションを起こし
── ところで、ここ数年の出来事でいえば、SNSで、ヤングケアラーについてときどき発信もされていますね。
荻野目さん:2021年からILO(国際労働機関)の児童労働反対に参加するアーティストのひとりとして、活動させてもらっていて、自分でも気になったニュースをつぶやいています。児童労働は、日本ではそんなに多くはいないとは言われていますが、最近注目を集め始めた、ヤングケアラーについて焦点を当てると、ものすごくたくさんの子どもたちが、実は関わっているんじゃないかと言われています。
でも、私たちも身近にそういった人たちがどれくらいいるのかもわからないし、子どもたちにとっても、自分が「ヤングケアラー」かどうかわからないで、今の環境にいる子もすごく多いと思うんです。
── 学校訪問もされているんですよね。
荻野目さん:学校に行ったときも発信していますが、それだけじゃ簡単には全国に広まらないんですよね。自分でも気になったつぶやきを見たときは、ヤングケアラーと思われる当人に自分からアクションはしてるんですけど、やっぱり返事は来ないんです。その方にもいろいろな思いがあるし、いち芸能人の人に声を掛けられても、気安く返事なんかできないかもしれない。それはわからないですよね。
でも音楽だったら、もし当人に直接届かなくても、他に聞いてくれる人がいるかもしれない。その人が、ヤングケアラーの実態に気づいてくれるかもしれないし、当人に「大丈夫だよ」って声を掛けてくれる人が増えるかもしれないって。そのきっかけになったらいいなと思って、自分にできることは何なのか、考えたりしています。
── ヤングケアラーを荻野目さんが語ることで、知る人が増えたらいいなと思います。
荻野目さん:私は肩書きを持ちたいわけでもないし、綺麗ごとを言うつもりもないんですけど、やっぱり全部、仕事も人の出会いも縁だと思ってるんですね。こういう縁がないと、仕事に就くこともできないし。何か繋がりがあることは、意味があることだと思っているので、自分が気になったことはアクションしてみようかなって。今の年齢だからこそ、感じることはあると思います。
たとえば東日本大震災のとき。それぞれの人が、自分に何ができるんだろうって考えたと思うんです。当時の私は、子どもたちがまだ小さくて自分の子どもを放り出して現地に行くわけにもいかなかった。まずは、自分の家族を守ることが自分の使命だと思ったので。
でも、今は子どもたちもずいぶん大人になって、手が離れてきました。ようやく私自身も、そうやって外に向けて関心を持ったり、何かお手伝いをできるような時期に差しかかったのかなと思って、今できることをやらせてもらいたいと思っています。
PROFILE 荻野目洋子さん
1984年デビュー。1985年シングル「ダンシング・ヒーロー」が大ヒット。2017年は大阪府立登美丘高校ダンス部とのコラボレーションで話題を呼んだ。4月に本人作詞作曲「Bug in a Dress」アナログレコード版が発売しライブも開催。
取材・文/松永怜 撮影/阿部章仁