近年は「リコカツ」「Get Ready!」などドラマでも活躍している、声優の三石琴乃さん。2024年には大河ドラマ「光る君へ」への出演も決定しています。一方、当初は声優の現場との違いに緊張の連続だったと明かします。(全5回中の5回)
映像は「人が間近で見ているなかで芝居をする緊張感がある」
── 最近はドラマへのご出演が続いています。声優の現場と、アプローチは違うのでしょうか?
三石さん:アニメーションの場合は絵が動いて芝居をしているので、それに合わせつつ、その動きのなかでの距離感を大事にしゃべるお芝居を心がけています。
ただ、映像の世界では、自分が動いていいので、「(この役は)どうやって動くんだろうな」とか、「ここで振り返るのかな」とか想像しながらセリフを覚えていきます。
なので、映像のほうが、現場が読めない割合が多くて。行ってみて、演じてみないとわからないことが多いので、緊張の度合いが大きいですね。
── 2021年の「リコカツ」が初めての連ドラ出演だったそうですが、実際に演じてみて、声優の現場との違いを感じましたか?
三石さん:全然違いました(笑)。
その役として会話するという、基本は同じだと思うんですけど。ドラマでは、カメラフレームの世界、画角のなかでの配置が重要。人やカメラがたくさんこっちを見ている状態でお芝居をするんですね。音響さんとか照明さんもすごく近い状態、ときにはカメラに向かって普通に会話のお芝居をするという。
最初は、そういう人の圧を感じすぎてしまって、芝居に集中できずヒリヒリとしました。
アフレコでは、自分の視界は映像だけ。共演者とも気持ちの上ではキャッチボールはしてますけど、位置は横。舞台のように何日も稽古できるわけもなく…。最初は、ちょっと苦手だなと思っていました。
── 自信をもって進んだというよりは、探り探り進んでいったという感じでしょうか。
三石さん:探り探りです。疑問だらけのまま「これで大丈夫でしたか?」って聞きながら。あとは共演者の芝居を見て、「こんな小さい声でも芝居が成立するんだ」「顔の動きって本当にちょっとで成立するんだ」と驚いたり。現場やオンエアを見て勉強になりました。
いまだに緊張で手が震えることもある
── 著書『ことのは』のなかでも、「トゥーマッチな演技になってしまうんじゃないかと心配だった」と振り返っていますね。
三石さん:そうですね、本当に心配でした。「リコカツ」で最初の収録のときも緊張しちゃって…。
最初の撮影シーンがボーリング場で(夫役の)佐野史郎さんに、スマホで動画を撮りながら「楽しそうね~」って声をかけるシーンだったんです。
── 夫の浮気現場に乗り込んでいくシーンですね。
三石さん:ボーリング場のロケだったから、パコーン、ガーンっていうボールの音も大きくて。だから、どのタイミングで、どのぐらい自分の声を出して良いのかまったく掴めなかったんです。
「ここは怒っていれば良いのよ」と思って、身を任せて臨んだんですけど、やっぱり顔が緊張してひきつってました。
── 三石さんでも緊張されることってあるんですね。
三石さん:いやー、いまだにそうです!手や身体がブルブル震えちゃったりすることもありますし。武者震いじゃないんだけど、“ビビリ震い”ですね。
── 声優の仕事のときも緊張されることがあるんでしょうか?
三石さん:アフレコでも極限の芝居をするときは、ぶるぶる来ますね。震えでマイクに台本のノイズが入らないようにしながら、プルプルしながらもしゃべる、という。
── そういうとき、どうご自身を落ち着かせるんですか?なにかおまじないとか、支えになっている言葉があるとか…。
三石さん:ないですね(笑)。一生懸命やって、音を立てないようにマイクから離れる。深呼吸するぐらいしかないです。
「夢は大河」がかなった瞬間
── 来年は大河ドラマ「光る君へ」への出演も控えています。オファーされたときの心境はいかがでしたか?
三石さん:大河ドラマといえば夢のようでしたが、同期の高木渉君も「真田丸」に出演して開拓してくれていたり、いろんな声優も起用されていて「夢ではない世界なんだ」と思っていました。
私は時代劇を見るのも好きだし、着物を着るのも好きなので「ご縁があったら良いな」とは思っていたんです。
「リコカツ」「Get Ready!」とドラマ出演が続いていたので、スタッフとも「大河の話が来たらいいね。夢は大河~!」と言ってたんです。
── 夢がかなったんですね!
三石さん:はい。直接、NHKのプロデューサーからオファーをいただきました。映像だけマネジメントをお願いしている方に「大河キターーーーー!!」ってLINEを送って(笑)。
プロデューサーからのご依頼メールに、冷静に丁寧に快諾のお返事を送った後、「わーい!!」って小躍りしましたね。
ドラマの仕事「今後もご縁があればやりたい」
── 今後は声優と両立していかれるのでしょうか?
三石さん:こればっかりは、ご縁なので。でも「リコカツ」や「Get Ready!」ではスタッフやキャストのおかげで楽しかったですし、役者としてのお仕事なんだなと思えたので、ご縁があればチャレンジしたいと思っています。
── 声優と俳優は、違いはあれど芯に通っているものは同じ、というか。
三石さん:そうなんでしょうね。コロナ収録で、声優の業界はバラバラの個別録りになったじゃないですか。ドラマって、基本バラバラで撮影するんですよ。
だから「なるほど。バラバラな撮り方でも、編集と監督の腕で成立するんだな」と思ったんですよね。
── なるほど。
三石さん:劇場版のアフレコでは、以前は一斉に20、30人が集まって収録していたのに、コロナ以降は作品完成後の舞台挨拶で、共演者に「はじめまして」とあいさつする時代になってきてしまって。最初は「何だろう、これは」と悲しかったんです。怒りにも似たものも感じて…。
一緒に作った感じもないままお客さんの前で「はじめまして」はないよね、と思ってたんですけど。ただ、映像の世界では普通に、今までもずっとそう作ってきたんですよね。作り方として、なくはないのだと思いました。
── 寂しいようですが、それもひとつの作り方として成立している、というか。
三石さん:ただ、声優に関して言えば、日本の声優のスキルが高いのは、みんなで一緒に録るという収録方法だったという歴史があるからこそだと思っているんです。そこは今、バラバラの収録になって、ぶっつり分断されてしまった。
今後、日本の声優というものの質は変わってくるんだと思います。
── ありがとうございます。最後に今後の夢があれば教えてください。
三石さん:いやいや、もうずっと元気で仕事ができて、家族とおいしいごはんを食べられれば、本当にうれしいと思います!
PROFILE 三石琴乃さん
1989年に声優デビュー。「美少女戦士セーラームーン」月野うさぎ役、「新世紀エヴァンゲリオン」葛城ミサト役、「呪術廻戦」冥冥役など、ヒット作に名を連ねる。近年では「リコカツ」(TBS)などドラマ出演も。声優生活を振り返ったエッセイ『ことのは』を上梓。
取材・文/市岡ひかり 写真提供/『ことのは』(主婦の友インフォス)