朝はなかなか起きてこず、休日もゴロゴロ寝てばかり。そんな夫にイライラを募らせていたら、バセドウ病だったことが判明──。バセドウ病になった夫を、妻目線で赤裸々に描いたエッセイ漫画が話題です。「病気の理解が進めば」と思い漫画を発表したという作者の桜木きぬさん(@kinumanga)に夫の病気がわかるまでの葛藤を聞きました。

 

夫の病気が判明し「怠け者」と思っていたことを後悔

寝てばかりいる夫を「怠け者」と思っていた

── 甲状腺ホルモンが過剰に作られることで、心身にさまざまな不調を引き起こすバセドウ病。バセドウ病がわかる前の夫さんはどのような様子でしたか。

 

桜木さん:漫画にも描いたように、まず朝起きられない日がしばらく続き、そのうち少し動いただけで動悸や息切れをするようになったんです。

 

食欲はあって食べているのにどんどんやせていき、ついには階段を一段上がるだけでもぜえぜえと息を切らして滝のような汗が出るような状態に。「これは明らかにおかしい!」と思って、病院嫌いな夫を説得して受診してもらいました。

 

ただ、もともと寝起きが悪い人だったので、最初はいつも通り起きないなという印象しかなくて。休みの日に昼寝をしてしまうのも、よくあるといえばよくあること。症状がひどくなるまでは、まさか病気だなんて思いもしませんでした。

 

── 夫さんご自身は、どう思っていたのでしょうか?

 

桜木さん:夫は、いつから症状がでたか正確には覚えていなくて、なんとなく朝起きられなくてだるいとか、やる気が出ない、疲れやすいといった症状が、だんだんと強まってきた感じだと言っていました。

 

当時は40歳目前で、年齢も年齢だったので、夫も私も「年のせい」だと思ってしまって、病気にはなかなか結びつきませんでした。

 

── 妻側からすると、怠けているように見えてしまいそうです…。

 

桜木さん:そうなんです。最初私は、夫をただの怠け者として見てしまって。子どもが当時まだ小さかったこともあり、休日に1日中寝ている夫を見ては「もっと家事や育児に参加してほしい」「子どもと思いっきり遊んでほしい!」と、イライラしてしまうことが頻繁にありました。

 

「だらだらしないで!」と怒ってしまったこともあって、今では申し訳なかったなと思っています。

Twitterが患者同士の交流の場に

── 漫画ではバセドウ病による生活への影響などがわかりやすく描かれています。「病名は聞いたことがある」程度の認識だったのですが、理解が深まりました。

 

桜木さん:バセドウ病は有名人の方でも公表されていたりするので、名前だけは知っているという人も多いんですよね。でも、どんな病気なのかというところまではあまり知られていない。

 

やはり怠け者と思われてしまうことがいちばんつらいみたいなので…、私の漫画でひとりでも多くの人にこの病気を知ってもらい、理解を深めてもらえたらと思っています。

 

── Twitterへの投稿は思わぬ反響もあったそうですね。

 

桜木さん:バセドウ病にかかっている方がたくさん反応をしてくれました。

 

皆さんが経験したことを教えてくれて、まだ夫がやったことのないアイソトープ治療や甲状腺切除の手術といった、バセドウ病が今より進行すると必要になってくる治療法について知る機会になっています。

 

私が何もリプ(Twiterのツイートに対する返信のこと)していないところで、フォロワーさん同士がリプしあったりしていて、私のTwitterが交流の場になっているのもうれしいです。私はひそかに「なるほどなるほど!」と思いながら、参考にさせていただいています(笑)。

発見されにくく診断がつかない場合も

── 最初は風邪と診断されてしまったとか。

 

桜木さん:まず最初に近所のかかりつけ医を受診したのですが、そこはベテランのおじいちゃん先生と息子の若先生が親子でやっている病院で。

 

初診で若先生に診ていただいて風邪と診断されたのですが、処方された薬を飲んでもいっこうによくならず…。再診をしたときにおじいちゃん先生に診断をしてもらったら、甲状腺が亢進している(活発に活動している)かもとのことで血液検査をしてもらい、バセドウ病だという診断を受けました。

 

かかりつけ医でバセドウ病の診断を受けた

── バセドウ病は、発見が遅れることも多いと聞きました。

 

桜木さん:うちの夫は比較的すぐわかりましたが、誤った診断を受けてしまうケースも少なくないようです。

 

よくあるのは、うつなどの精神的な疾患だと思われてしまうケース。バセドウ病は「朝起きられない」「やる気がでない」などの症状がそうした精神疾患の症状と似ているため、心の病気を疑われることも多いと聞いています。

 

── 少しでもおかしいと思ったら、他の病院を受診したり、専門の病院で診てもらうことが大切ですね。夫さんは、現在初診から数えて3つ目の病院にかかられています。

 

桜木さん:最初の病院でバセドウ病と診断されたあと、近所の比較的大きい病院を紹介されたのですが、そこの病院の先生は内科が専門で、あまりバセドウ病に詳しい方ではなかったんです。

 

そんなとき甲状腺専門の有名な病院があることを知りました。通うには少し遠かったので当初転院するつもりはなかったのですが、一般的な病院と比べるとできることがまったく違っていて。

 

── 具体的にどんなことが違ったのでしょうか?

 

桜木さん:たとえば、血液検査をしたら結果が出るまで3〜4日かかるのが一般的だと思うのですが、その病院の場合、すぐに結果が出るんです。まず最初に血液検査をして、その結果を踏まえて診察します。

 

スピーディーに検査結果がわかるのもありがたいですし、検査項目も多くてより詳しく病状がわかります。また、高度な治療ができる設備も充実しています。

 

今は高度な治療は必要ない状況ですが、専門医に見てもらうことで日々の生活にも安心できますし、将来に備える意味でも、転院してよかったと思っています。
 

PROFILE 桜木きぬさん

イラストレーター兼漫画家。会社員の夫と中学生の息子との3人家族。Twitterに投稿している自身や家族の実体験を描いた漫画、「夫がバセドウ病にかかったら」「内臓破裂メモリー」などが反響を呼び、エッセイ漫画家としても活躍中。

 

取材・文/上野真依 イラスト提供/桜木きぬ