「女子トイレも更衣室もない」「生理のつらさを周囲に話せない」。思春期の身体の変化にとまどいつつ、野球選手として男子と同じ練習メニューをこなしてきた片岡安祐美さん。男集団のなかで、自分で身体のケアをする難しさ、事情を知って支えてくれた人たちを振り返ります。(全4回中の2回)

 

貴重!成人式のときのあどけない“振り袖姿”の片岡さん

「球場に女子トイレがない」思春期を支えた母

── 小3から野球をはじめ、中学・高校・社会人と男子ばかりのチームで同じ練習メニューをこなし、結果を出してきた片岡さん。体力・体格差もさることながら、思春期の身体の変化などで苦労されたのでは?

 

片岡さん:小6で初めて生理になったんですが、知識では知ってはいたものの、やはりショックでした。

 

野球のときに困るだろうと母が「続けたいなら、使い方を覚えなさい」と、タンポンの使い方を教えてくれました。

 

野球場には女子トイレがないところが多く、使用済の生理用品はタオルに包んでユニフォームのポケットに入れて持ち帰っていました。練習でもそんな感じ。

 

生理痛もあまりなかったので、変わらず男子と同じ練習メニューをこなしていましたし、周囲は気づかなかったと思います。

 

唯一の不安は、ユニフォームに漏れたらイヤだなって。でも、母に教えてもらい、鉄壁の守りをしいていたので、大惨事にはいたりませんでした。

 

高校時代の片岡さん

── 野球のユニフォームって真っ白が多くて、あれはプレッシャーですよね。お母さま、先を見越したアドバイスがすばらしいです。野球はやっていませんが、私にも小学生の娘がいるものの、なかなかそこまでは言えないです。

 

片岡さん:母は最初、私が野球をやることには大反対。「男の子を生んだ覚えはありません」と。私は「男に産んでくれたら甲子園に行けたのに」って、思っていましたけど(笑)。

 

でも、私があまりに野球に夢中になっていたから、母も覚悟を決めて応援してくれるようになりました。

 

男集団に女ひとりの状態が続いたので、母にはよく相談しました。貴重なアドバイスもあったけど、唯一私が聞き入れなかったのは「日焼け止めを塗りなさい」。

 

これはいまになって後悔しています。高校はもとより、社会人野球でも塗らなかったんですよねぇ。太陽の下で戦う女性アスリートには、声を大にしてお伝えしたい教訓です(笑)。

 

── お母さまの存在は大きいですね。中学、高校と進むにつれ、さらに男子との体格・体力差が開きますが…。

 

片岡さん:小学生のときは、ホームランをいちばん多く打っていましたが、中学に入って身長や打球の飛距離、足の速さも男子に追い越されました。

 

すべてにおいて男子に勝てなくなったんです。コーチに教えてもらい、野球選手として生きるために、体ではなく頭で勝負する考え方に変えて、レギュラーをとりました。

 

でも、身体の変化についてはグラウンドに相談相手はいません。高校時代、生理がとまったことがあります。

 

母に相談して、婦人科に連れて行ってもらいました。妊娠・出産までつながっている考えはなかったので、そんなに深刻にはとらえていませんでしたが、ホルモン剤を服用することに。

 

1週間くらいは吐き気に悩まされましたが、野球をやめたいとは思いませんでした。

「言えなかったなぁ」生理やホルモンバランスの不調

── 現場に相談相手がいないっていうのはつらいですね。男社会なので、そもそも誰も気づかない。

 

片岡さん:生理のこととか、ホルモンバランスによる体調不良って、女性なら抱えているもので、本当は隠す必要はないですよね。でも言えなかったなぁ。

 

社会人野球に入っても女ひとりで、20代のころは身体のことを話題に出せませんでした。パパになった選手たちが増えたので、監督になってからは少しずつ話せるようになって。

 

流産を経験したときは、休まないといけないこともあってキャプテン・副キャプテン・助監督に事情を話し、支えてもらいました。

 

全員に言うと逆に気をつかわれてしまいますし…。でも、必要なときに助けを求められる相手がいて、「大丈夫ですよ」「思う通りにしてください」と言ってもらえて安心しました。

 

社会人チームの監督としてノックを行う片岡さん(写真中央)

── 信頼できるメンバーの支えがあってこそですね。男社会である野球チームで、ほかに女性として苦労されたことはありますか?

 

片岡さん:なんといってもトイレ問題ですねぇ。そもそも女子トイレがない野球場が多くて。私がトイレにいる間はメンバーに見張りで立ってもらったり。同じように、着替えも不便です。

 

── せめて女子が2人いれば、状況は違ったのかもしれませんね。

 

片岡さん:そうですね。わたしは女子の社会人野球チームにも所属したことがありますが、そちらは女性のニーズにあわせて整備されています。

 

社会人の大会では必ず託児所があるし、安定期なら妊婦でも安全確保をきちんとすればベンチ入りも認められています。

美女アスリートと呼ばれ「これでいいの?」と困惑

── 萩本欽一さんにスカウトされて、社会人野球を始めたときは、“美女アスリート”、“野球界のアイドル”としてメディアに大きく取り上げられました。初の女性選手だったのでしょうか?

 

片岡さん:ほぼ初めてらしいです。美女アスリートなんておこがましくて、「すいません」って、ひたすら胸の中で手をあわせてました(笑)。

 

小学校で野球を始めてからずっと「珍しい」存在だったので、男の子に後ろから頭こづかれてちょっかい出されたり、無視されたりしてきました。

 

社会人になったら、いきなり持ち上げられて戸惑いもありました。カメラ向けられて笑顔で笑っている私、「これでいいの?」って毎日考えていましたよ。

 

いまから思うと、女子野球に関心を持ってもらえるチャンスなのでありがたかったはずなのですが。

 

私より先に野球をしてきた女性はたくさんいて、その流れでいまの私がいます。私も女子野球の環境を変えるために一役買えたならと思います。

 

2021年からは、女子高校野球の決勝戦が甲子園で行われるようになりました。本当に嬉しいです。

 

── 茨城ゴールデンゴールズ、唯一の女子選手にファンの反応は?

 

片岡さん:本当にみなさん温かく応援してくれます。なかなかヒットを打てずに苦しんだ時期に行った和歌山遠征で、地元の女性からの「あゆみちゃーん!女は負けたらあかん!顔上げろ~!」という声援。

 

いまでも忘れられませんし、思い出すと涙があふれそうになります。私、ほんとに涙もろくてたくさん泣いてました(笑)。

 

PROFILE 片岡安祐美さん

1986年、熊本県生まれ。熊本商業高校硬式野球部に入部。高校時代に女子野球世界選手権日本代表に3年連続で選出。社会人野球クラブチーム「茨城ゴールデンゴールズ」に入団、2010年に監督就任。2014年に全日本クラブ野球選手権優勝。2017年に元プロ野球選手の小林公太さんと結婚、2022年長男を出産。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/片岡安祐美、株式会社佐藤企画