義母との関係はむずかしいものです。夫の母親だから他人と思う人もいれば、夫の母は自分の母同様だと思う人もいます。義母の立場で考えることも人それぞれ。最適な距離感が見つかるまでは葛藤が続くものなのかもしれません。

 

料理を作り置きしてくれる義母「私の分はないけれど」

結婚して8年たつミチコさん(40歳、仮名=以下同)には、5歳になるひとり娘がいます。同い年の夫とは共働きで、夫の実家近くに住んでいます。

 

「本当は離れて暮らしたかったけど、共働きだからどうしても義母を頼らざるを得ないこともあります。

 

なるべく義母の世話にならないよう、困ったときはベビーシッターをお願いしているんですが、手配ができないときは義母に頼んでいます。

 

だから、割りきって『時給』も払ってきました。義母はそんな私を“冷たい人間”と思っていたようで、さんざん嫌味を言われてきました」

 

“どうせろくな料理をしていないんでしょ”と、言わんばかりにおかずを詰めたタッパーには、息子と孫の名前が書かれていたこともあるそう。ミチコさんには「食べるな」という意味でしょう。

 

「ときどき持ってきてくれるものは、みんなふたり分なんですよ(苦笑)。ケーキやお寿司も。さすがに夫も『こういうのはどうかと思うよ』と実母を責めていました。

 

でも、夫にとってはたったひとりの母親だから、私としてはあんまりキツいことは言わないでと頼んでいました。

 

義母からは『妻はご主人に尽くさなければいけないの』と言われて、ひっくり返りそうになったこともありますが、そういう価値観だと割りきるようにしました」

家族の前で泣き崩れて謝ってきた義母

娘が産まれたときには「ミルクなんて許さない。絶対に母乳よ」と毎日のように言い続けたといいます。

 

母乳の出が悪かったミチコさんはそのプレッシャーに耐えかねて保健師さんに相談したこともありました。

 

そんな義母が、この年末年始、集まった家族の前で突然「ミチコさん、いままでごめんなさい」と泣き崩れたのです。

 

それは夫の妹の結婚と関係がありました。3年前に結婚した義妹の夫の母親がとてつもなく「いい人」なのだそう。

 

「義妹はデキ婚だったんですが、相手のお母さんがとても優しいみたい。出産したとき、『あなたがいちばん大変だったんだから、あとで好きなものでも買って』とねぎらって、気前よくお金も渡してくれたそう。

 

義妹が退院してからは、週に何回も手伝いに来て掃除をしたり、常備菜をパパッと作ってくれたり。そして、淡々と家事を終えたら、サッと帰ってしまう。

 

1か月経ったころには『子どもは私が見ているから、美容院にでも行ってきたら』と。義妹は、ときどき実母に義母の振る舞いを報告していたそうです」

 

あるとき、実母から「私は嫁の教育をしている」と聞いた義妹は、「いまどき、何を言っているの?」と実母を責めました。

 

義妹はことの詳細を私の夫からもいろいろ耳にして、「お母さんは間違っている。うちの義母を見習ってよ」と言ったそう。

義母同士が鉢合わせ「お茶出しや帰り際の態度に驚くばかり」

「たまたま義母が義妹の家に行ったとき、相手方の義母も来てくれたそう。義妹の義母はみずからお茶を入れたり、義妹にもとてもやさしく接していたそうです。

 

そして『今日は水入らずで過ごして』と、買ってきたお寿司を置いて帰っていったとか。そんな姿に尊敬すら抱いている自分の娘を見て、義母も何か感じるところがあったんでしょうね」

 

号泣しながら「私は古かった。自分は若いときに姑にいびられたから、私も嫁が来たらわが家になじむように教育しなければと思っていた。

 

でもそれを娘にさとされたの。私があなたたち夫婦のやり方に口を挟むべきではなかった」と、義母は真剣に謝罪しました。

 

そのとき、ミチコさんも心動かされたといいます。

 

「自分の価値観を間違っていたと認めることができるのはすごいなあって。『許してくれるかしら?』と懇願する義母に、『お義母さんにはお義母さんの考えがあったんですから、許すとか、許さないじゃありませんよ』と答えました。

 

『これからはお互いにもっと話し合って、いい距離感を見つけていきましょう』と、手を握り合ってしまいました」

 

いまはすっかり意地を張らなくなった義母。ミチコさん一家も、ときどき義両親を訪ねて食事をともにしています。

 

娘を預かってもらったときの“時給”は、義母が貯金してくれていることも知り、ミチコさんも義母に敬意を伝えたそう。これからはいい関係が築けそうと、ミチコさんは笑顔を見せました。

 

文/亀山早苗 イラスト/前山三都里