コミカルなイラストで日常のおもしろネタを綴ったブログで一躍有名になったカータンさん。去年、特別養護老人ホームで生活していたお父さんと、乳がんを発症して闘病生活を送っていたお姉さんを亡くしました。認知症を患うお母さんの介護を続けるなか、激動の日々を振り返って現在の心境を明かしてくれました。

姉の病気を伝えても忘れてしまう認知症の母

── ご両親はお姉さんの病気のことは知っていたのですか。

 

カータンさん:姉は自分の弱みをいっさい出さない人でした。父には姉の病気のことは少し伝えたのですが、父も病気を患っていたので心配をかけるからとあまり詳しくは話していませんでした。

 

カータンさんのイラスト
お父さんが入所する特別養護老人ホームに家族4人で向かう車内の様子を描いたカータンさんのイラスト

父は要介護3の認定を受けて特別養護老人ホームに入所していたのですが、定期検診で姉と大学病院に行ったとき、父がすごく元気で、姉は「パパが元気でよかった。私、元気じゃないからさ…」と言ったんです。父は「どうしたんだ!?何かあったのか」と言ったんですが、姉は「ううん、パパに会えたから元気になったよ」って。

 

でも姉はあとから「私、あまりにもパパが元気だから心配してもらいたくて、少しいじわる言いたくなっちゃったんだよね」って言ったんです。私なら「がんだから元気じゃないんだよ!」と吐き出して同情を買うと思うのですが、そこで言わないところが本当に姉らしいです。

 

── 新刊『お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中!親のトリセツ』でも認知症を患うお母さんの様子が描かれていますが、お母さんはお姉さんの病気のことをどう受け止めていますか。

 

カータンさん:認知症なので悪気はないのですが、母は姉の姿を見て「あら、なんで足引きずってるの?」と言うんです。私はそれを聞いてカチン!ときてしまって。「病気だからだよ」いうと、母は「なんの病気なの」って。「がんだよ」と答えても、すぐに忘れてしまう。

 

姉の闘病中に母が恨めしかったときもありました。もし母が認知症じゃなかったら、姉も甘えられたのにと。それに、私も母といっしょに姉のことを慰め合いたかったですね。

 

── ご両親の介護とお姉さんの闘病生活が同時期でした。

 

カータンさん:いちばん辛かったのは、姉が寝たきりになってから毎日姉の家に行って過ごし、そのあと母がいる実家に行くときです。気持ちの切り替えがうまくできなくて。実家の玄関のドアを開けて能天気な母がいると、無性に腹が立ってしまって。

 

でも知人から「お母さんがしっかりしていたら、きっとどんよりしてもっとメンタルやられてしまうよ。お母さんが認知症でよかったよ。悲しまずに済むんだから」と言われたことがあって。

 

本当にその通りだなと思いました。姉のところに行って、そのあとまた実家で母にも泣かれたら大変なことになっていたと思います。よかったなと思う反面、実際に姉が亡くなってから母が可哀想になってしまって。

 

カータンさんのイラスト
東京で雪が降った日、お母さんが生まれ故郷の北海道にいると思ったエピソード「母と束の間の北海道小旅行」より

本当に大変なときに「言葉はいらない」

── それはどうしてですか。

 

カータンさん:私にも娘がふたりいるのですが、母親だったら、子どもがつらいときに寄り添ってあげたかっただろうなと思って。それがどんなに辛くて、悲しいことだったとしても、しっかり受け止めて娘を見送り届けたいと思うんです。

 

その立場になってみないとわからないことってたくさんあるんだと思いました。この年になると、友人のご両親が亡くなったという連絡もいただきますし、そんなときにどう言葉を返したらいいかわからないときもありました。

 

── 近い間柄の方だとさらに悩みますよね。

 

カータンさん:闘病されていたが亡くなって「痛みから解放されて…」なんて絶対に言えないです。姉が余命宣告を受けたとき、「そう言われても何年も生きている人がいるよ」とか、「この本ではこう書かれているし、きっと大丈夫」と声をかけていただきました。希望を持って必ず姉は元気になると思っている自分と、素直に受け止められない自分との間でずいぶん葛藤しました。

 

でもそこで、もしかしたら「私も今まで周りの人にそう言ってきてしまったかもしれない」と反省したんです。励まして、なんとか力になろうと思って言ってくれているのはすごく伝わるのですが、本当にいっぱいいっぱいだったときに言葉はいらなくて、「それは本当につらいね、話は聞くよ」と言ってもらえたことにすごく救われました。

 

── カータンさんのように、子育てをしながら親の介護や家族の闘病生活を支える方が今後ますます増えていくと思います。

 

カータンさん:家族のことで、なんだか自分の人生が消耗されていくような感覚を抱くことがあります。でも、経験者として私が言えることは「頼れるのものはすべて頼る」、これに尽きます。私も姉も、親が少しボケてきたかな?と思った時期に、何から手をつけたらいいのかわからなかったんです。

 

まず地域包括支援センターに行ってケアマネージャーさんとお話をしてから、していただけることがかなり増えました。歯科医や往診の先生に来ていただけたり、介護保険でヘルパーさんを入れたり、デイサービスに通うこともできます。日本の介護制度は素晴らしくてとても手厚いので将来が心配になるほどです。

 

きっと、こんなに高齢になるとは親世代は思っていなかったと思うんです。それに、年を重ねると頑固にもなりますし、自分ができないことを認めたくなくなるというのも痛感しています。

 

私が何かを忘れたときに娘から「ママ、ボケたんじゃないの」と言われても昔は「へへ〜!」なんて笑っていたのに、今では「ボケてないわよ!」なんて言い返していますし。

 

── カータンさんは今から、ご自身の老後について娘さんに話しているそうですね。

 

カータンさん:延命治療のことも今から話していますし、免許返納についても伝えています。おそらく年を重ねたら、「ママはね、そのへんの高齢者とは違うのよ」と言って返納を渋る自分が想像つくんです。

 

山口百恵さんがファイナルコンサートでマイクを置いたときじゃないですが、いさぎよく返納したいので、事前に誰かに伝えておいたり、書いたりしておいた方がいいですよね。

 

お子さんがいらっしゃる方は、「自分が今、親のことで困っていることがあれば、それはいつか子どもが困ること」と覚えていた方が良いと思っています。

 

PROFILE カータンさん

カータンさん

1967年生まれ、元客室乗務員。2007年よりスタートした、コミカルなイラストで日常を赤裸々に綴ったブログ『あたし・主婦の頭の中』が人気を集める。家族は夫と2人の娘。著書に『健康以下、介護未満 親のトリセツ』、新刊『お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中!親のトリセツ』(KADOKAWA刊)が発売中。

 

取材・文/内橋明日香 イラスト・写真提供/カータン