人間はちょっとずつしか変われない
── 家族との距離感の難しさも描かれています。ひとりの不完全な人間として、親を見つめる主人公の眼差しが印象的でした。
阿賀沢さん:子どものときって、親は最初から親という生き物だったみたいに思い込んでしまいがちですよね。でも自分が成長するにつれて、「あれ、親だって普通の人間だな?」と感じる場面や、人っぽく見える瞬間が増えていく。
ちょうど高校生もそういう時期ですよね。『氷の城壁』では主人公の小雪の親子関係を通して、そうした過程も描いてみたかった。
── いっぽうで、連載中の『正反対な君と僕』は明るくポップな王道ラブコメです。みんないい子だけれども、いい子すぎもしない。等身大の高校生たちが、少しずつ人と距離を縮めたり、相手を知ろうと頑張ったりしている姿は思わず応援したくなります。
阿賀沢さん:天使みたいに完全ないい子は、現実にはいませんよね。それと同じで「めっちゃ嫌なヤツ!」と自分が思う相手でも、その人にはその人なりに仲がいい友達や味方がいたりする。
なので、間違ったことをした人に正論をぶつけてめでたしめでたし、となるような、勧善懲悪的な展開はしっくりこないんです。それは主人公が絶対的に正しい存在という場合じゃないと成り立たないと思うので。
それに、人ってなかなかすぐには変われないですよね。正論をぶつけられても、その場で簡単に自分の考え方のクセみたいなものは変えられない。
投げかけられた言葉をいったん持ち帰って、「でも自分はこう思う」「いやでもどうだろう?」とかいろいろ考えたり迷ったり。そういう体験を重ねることで、ようやくちょっとずつ変わっていけるのかなと思っています。
PROFILE 阿賀沢紅茶さん
集英社少女マンガグランプリで特別賞を受賞し、2020年ウェブトゥーン『氷の城壁』にてデビュー。現在は集英社マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて、付き合いたての高校生カップルを描く『正反対な君と僕』(隔週月曜更新)を連載中。コミックス3巻好評発売中。
取材・文/阿部花恵