「少年ジャンプ+」で連載中の青春ラブコメ『正反対な君と僕』が、「マンガ大賞2023」にノミネートされている阿賀沢紅茶さん。ポップでかわいい絵柄とギャグをちりばめたテンポのよい作風で人気急上昇中の阿賀沢さんが、デビュー作『氷の城壁』で「恋愛よりも描きたかった」こととは?

 

*インタビュー中に「氷の城壁」の終盤の内容のネタバレが含まれます。

現実は恋だけじゃ救われない

── 少女マンガといえば恋愛が物語の大きな推進力としてよく描かれますが、『氷の城壁』と『正反対な君と僕』、どちらもいろんな友情の形が描かれていますね。

 

阿賀沢さん:そこは単純に私の好みかもしれません。男女の組み合わせだからといって、必ずしも全部が恋愛になるわけじゃないですよね。

 

お互いを恋愛対象としては特に見ていないけど、仲がいいし話す。そういう男女の組み合わせって普通によくあるじゃないですか。

 

キュンキュンときめく感情もいいですけど、そういう異性の友達同士の関係性を見るのが個人的にけっこう好き、というのはまずあるかもしれません。

 

阿賀沢さんが描く恋愛関係ではない男女の友情。(『氷の城壁』第54話「熱量と色」より)(c)阿賀沢紅茶/集英社

──『氷の城壁』は恋が成就した時点でハッピーエンドを迎えるわけではないのも、新鮮でした。あえてそうした展開にしたのはなぜでしょう。

 

阿賀沢さん:素敵な彼氏ができたから幸せです、で終わらせると、「じゃあ別れた後はまた不幸に戻るのか?」という話になるなと思ったんです。ずっと幸せで関係が続けばいいですけど、別れたら単に不安定な人間がひとり残るだけになっちゃう。

 

だから、その子自身が恋愛とは別で抱えていた悩み、どうしてそういう性格になったのかとか、根本のぐちゃぐちゃした部分にも向き合わないといけない気がしたんです。

 

自分としては恋愛はあくまで読者に楽しんでもらうためのパートであって、むしろいちばん描きたかったのはそうした根本の部分に主人公たちがどう向き合うかでした。そこさえ乗り越えることができたら、恋が終わってひとりになっても、きっとやっていけるはずなので。