デビュー作『氷の城壁』が大ヒットした後、現在は集英社マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて『正反対な君と僕』を連載中のマンガ家・阿賀沢紅茶さん。10代のもどかしさをリアルかつ繊細に描く作風に「あのころに引き戻される」とハマる大人読者が続出しています。

 

氷の城壁
小雪を中心とした4人の高校生の成長を描く『氷の城壁』(c)阿賀沢紅茶/集英社

「いろんな人間が同じ空間にぶち込まれる」高校生活の異質さ

──『氷の城壁』はクールな態度から氷の女王と呼ばれることのある女子高校生・氷川小雪が主人公。友人たちと関わるうちに、だんだん彼女の心の壁が溶けていくようすが描かれます。小雪を中心とした4人の高校生の成長を描くいわゆる青春ストーリーですが、このテーマで描き始めたきっかけは?

 

阿賀沢さん:『氷の城壁』はもともと、インディーズサイトに趣味で投稿していたマンガなんです。スマホを縦にスクロールして読んでいくウェブトゥーンと呼ばれるタイプのマンガなので、新しいものに抵抗がない10代とか若い子が読むのかな、じゃあ学園ものにしよう…と、そんな軽い気持ちでキャラクターを考えたのが始まりでした。

 

── 縦にスクロールしていくマンガだと、雑誌とはまた見せ方が違うのでは?

 

阿賀沢さん:そうなんです。韓国のウェブトゥーンを初めて読んだとき、あまりにも今までのマンガと違っていて衝撃だったんですよ。雑誌連載のように第一話で全部を説明しようともしていないし、雑誌のカラーや枠みたいなものもない。

 

話数がある程度たまったら一気に投稿して読んでもらう、みたいな感じで描けたので「こんな自由に書いていいんだ!」と驚きました。

 

── 心理描写が秀逸です。幼馴染の美姫や、人気者だけどどこか冷めている湊、穏やかな陽太が登場しますが、それぞれが抱えている恋や友情ではない、思春期特有のモヤモヤした感情を、気持ちいいくらいに言語化されています。

 

阿賀沢さん:高校生ってまだ子どもじゃないですか。中学生よりは動ける範囲が広がるけど、大学生ほど自由度があるわけじゃない。狭い世界のなかで、自分が他人にどう見られているかが気になるとか、友達との気持ちの行き違いとか、そういう範囲でまだ生きている存在ですよね。

 

わりといろんな人間がいるのに、みんなが同じ空間にぶち込まれている。そういう異質さみたいなものと、それでも自力で動いて悩みを解決していくような話を描きたかったのかもしれません。

 

だから登場人物たちの悩みも、「クール」と周囲に言われる小雪が違和感を覚えたり、すごく些細で地味なものばかりですね。

 

氷の城壁
「クール」という周囲の評価に「顔のせい?」と考え込む小雪(『氷の城壁』第1話「氷川小雪」より)(c)阿賀沢紅茶/集英社

── クラスのなかの陽キャ/陰キャの立ち位置や、他人との距離の詰め方が実はみんな慎重だったりするところに「今の10代っぽさ」を感じます。集英社マーガレット編集部の担当編集さんは『氷の城壁』の魅力をどう感じていますか。

 

担当編集:阿賀沢さんの作品にはいろんな魅力があるのですが、なかでもキャラクターの心情に対する解像度の高さがすごいですよね。悪人は全然出てこないのに、それぞれの人物が持つ価値観の違いや考え方のクセで、歩み寄ったり反発しあったりする。

 

『氷の城壁』も最初の数話を読んで、そういった空気感がすごくリアルだし今っぽいなと感じました。だから大人でも共感できるし、作品世界に入り込める。そこが阿賀沢さんの作品の魅力だと思っています。