私は「親のエゴ」の一方的な犠牲者じゃない

── 勇気をもってぶつかったことで、初めて本心で向き合うことができたのでしょうね。

 

高橋さん:その後、2人で何時間も話をして、今まで思っていたことを全部伝えられたんです。

 

「お父さんのことが嫌いだったわけじゃないよ。ただ怖かった。最後まで話せないことがすごく嫌だったんだ」と積年の思いを素直に伝えることができました。

 

父も黙って、「うん、うん」と聞いてくれて…。そこからは、なんでも話せる関係になりましたね。

 

高橋洋子さん
姉と一緒に父親に抱きしめられる幼少期の高橋さん(一番手前)

── 長年のわだかまりが解けた瞬間だったのですね。

 

高橋さん:30年かかりましたけどね。今思えば、私自身、親の立場になってみて気持ちがわかる部分もあったけれど、それ以上に、「父はなんであんなことをしたんだろう」と怒りが再燃したのだと思います。

 

── 蓋をしていた感情が、湧き出てきた。

 

高橋さん:今だと、父は毒親と呼ばれるでしょうね。でも、私が一方的に親のエゴの犠牲になったといわれると、それはちょっと違うと、今では思っているんです。

 

── いったいなぜでしょう?

 

高橋さん:振り返って感じるのは、父は、純粋に音楽が大好きだったということ。

 

やり方はかなり間違っていたかもしれないけれど、「もっとうまくなってほしい」という必死さや、音楽をまっすぐ愛する気持ちはいつも感じていました。

 

ある意味、これほど自分に正直に生きている人はいない。そう思ったら、急に父が愛しく思えてきたんです。

 

── 音楽で繋がっていた親子だったのですね。

 

高橋さん:今、こうして父が与えてくれた音楽という財産で生活できているのも事実です。ときどき弾くピアノが癒やしの時間にもなっています。父が与えてくれたものに、今ではすごく感謝しているんです。

 

それに、本当に嫌だったらやめればよかったのに、私はそうしなかった。すべて自分の選択だったわけです。つらい環境を父親のせいにしてきたけれど、結局は、すべて自分で選んだもの。その選択は正解だったと、今では胸を張って言えるようになりました。

 

PROFILE 高橋洋子さん

1966年、東京都生まれ。1991年に「P.S. I miss you」で、ソロ歌手としてメジャーデビューし、レコード大賞新人賞、有線大賞新人賞を受賞。『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌「残酷な天使のテーゼ」、97年に公開されたアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』主題歌の「魂のルフラン」は、現在に渡りロングヒット中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/高橋洋子