その人の生き方が歌になる

──「残酷な天使のテーゼ」のロングヒットを知っているので、そんな葛藤をされていたとは驚きです。

 

高橋さん:当時、結婚して子どももいたので、友達からは「お給料もらえるんだからやめることないじゃない」と言われました。もちろん考え方は人それぞれですが、私個人としては、「音楽というものは、お給料をもらえるからやる仕事ではない」と思っていて。

 

── どういうことでしょう?

 

高橋さん:私は、「その人の生き方が歌になる」と考えているんです。

 

では、今の自分はどうだろう?と振り返ると、周りからお膳立てしてもらったうえでようやく成り立っている。そんなぬるま湯に浸かっているような状態の自分が、皆さんの心に届く歌なんて歌えるのだろうか、と。

 

それに、子どもがいるからこそ、胸を張って見せられるような生き方をしたかったんです。とにかく、この環境をいったんリセットしようと、芸能界をやめました。

 

その後、紆余曲折を経て、再びこの世界に戻りましたが、今は特定のレコード会社とは専属契約を結んでいないので、一つひとつの仕事が真剣勝負。すべて一期一会だと思って向き合っています。

 

高橋洋子さん
芸能界にカムバックした高橋さん
──「生き方が歌になるから、どう生きるかを大切にする」という考え方に、背筋が伸びる思いがします。仕事に対して、そういう気持ちで向き合いたいものですね。

 

高橋さん:今こうして取材してくださっているライターさんだってそうではないでしょうか?というか結局どんな仕事でもそうだと思うんです。

 

もちろん考え方はいろいろあると思いますし、置かれた場所によっても違うでしょう。でも、私の場合、温室ではなく、身の丈に合った場所で自分の生き方を見つめ直す時間が必要だったのだと思います。

 

── ハングリー精神がエネルギーになるタイプなのですね。

 

高橋さん:いったん芸能界を離れたことで、それを実感しましたね。売れなかったからこそ、自分を客観視することができたのかもしれません。

 

今、できることを精一杯がんばりながら、自分らしく生きる。今の自分の生き方が心地いいですし、すごく気に入っています。

 

PROFILE 高橋洋子さん

1966年、東京都生まれ。1991年に「P.S. I miss you」で、ソロ歌手としてメジャーデビューし、レコード大賞新人賞、有線大賞新人賞を受賞。『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌「残酷な天使のテーゼ」、97年に公開されたアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』主題歌の「魂のルフラン」は、現在に渡りロングヒット中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/高橋洋子