誰であっても自分の「強者性」に気づくのは難しい
── 大人と子ども、男と女のように、体格差がある関係性で強い側に力を振るわれてしまうと、どうしたって弱い側は恐怖を抱いてしまう。ただ、そのことに無自覚な人は多い印象を受けます。
水谷さん:そこはすごく私も感じますね。ただ、これって男性が悪いとか鈍いとかいった単純な話ではなくて、誰であっても自分の「強者性」に気づくのは難しい、という問題だと思っています。
向かい合ったときに、相手より弱い立場になるとすぐわかるんですよ。なぜなら不安や恐怖が生まれるから。だけど相手より強い立場にいると、そうしたネガティブ感情が生まれづらい。だから自分が強者である事実を自覚しづらいんです。
そうすると、強者側は「普通」に振る舞ったつもりでも、結果的にそこに加害性が生まれてしまう場合もある。
「この強者性をどうすれば男性に自覚してもらえるだろう?」と私もいろいろ考えてみたことがあります。
昔、「僕は華奢でひ弱、女性に脅威を与える男じゃない」と訴える男性に「じゃあ私の手首を握ってみて」とその人の手首と比べてみてもらったんですよ。そしたら、明らかに「骨の太さが違う」と理解してもらえた。そこまでやらないと「強い」側の人はなかなか意識できないんだなと思いました。
── なるほど。共通パーツなのにここまで違うと体感してもらう。
水谷さん:私は20年くらいずっと空手を習っているのですが、面と向き合った相手とフィジカルの差が大きくあると、そのことが感情に与える影響は大きいなと常々感じていて。
これは女性にだって同じことが言えるんです。まだ幼い子どもにとって、母親は絶対的な権力者ですよね。その大人としての強者性に無自覚なまま、子どもを抑圧したりコントロールしようとしたりすると、いわゆる毒親になってしまう可能性が高い。
心地いい関係性を築くには両方が頑張らないとダメ
── ある関係性では「弱者」側だけれども、別の関係性では「強者」側になる。そして強者性は誰であっても自覚がしづらい。
水谷さん:そう、だから人類みんながそこは気をつけなきゃいけないと思っています。
夫婦関係に話を戻すと、自分と相手、どっちが正しくてどっちが普通とかは、実はあんまり関係ないんですよね。それよりも、「この人とこれからも一緒にいたい。じゃあそのためにはどうすればいいか?」を二人で一緒に考え、話し合って、お互いが変わっていくことのほうがずっと大事。
二人が居心地がいい関係性を探すのであれば、やっぱりどちらかだけじゃなく、両方がんばらないとだめなんですよ。
私は今回のマンガを描いて、うちの夫ってすごいなとあらためて思えたんです。自分の弱さをマンガにして世間に出されても、「まあ事実だから、いいよ」とこだわらない。
自分の間違っていた部分を素直に認めること。事実を受け入れられること。本当の「強さ」って、こういうことなのかもしれないなと夫を見て思っています。
PROFILE 水谷さるころさん
1976年千葉県生まれ。イラストレーター、漫画家、グラフィックデザイナー。女子美術短期大学卒業後1999年漫画家デビュー。2008年、旅チャンネルの番組「行くぞ! 30日間世界一周」に出演、その道中の顛末を漫画化し全3巻、続編全5巻の人気シリーズに。著書に『世界ボンクラ2人旅!』『結婚さえできればいいと思っていたけど』などがある。
取材・文/阿部花恵 画像提供/水谷さるころ