対談やインタビューの名手として「プロフェッショナル仕事の流儀」「スタジオパークからこんにちは」などの番組で活躍してきた、元NHKでフリーアナウンサーの住吉美紀さん。著名人のインタビューでは、どうしても同じような話になってしまいがちですが、住吉さんは相手が「この話、初めてするよ」という話を何度も引き出してきました。住吉さんが実践する、独自性のあるインタビューのコツとは?(全5回中の3回)
「ちゃんと心どっぷり相手の話を聞く」
── 著名人をはじめ多くの方をインタビューしていらっしゃいますが、心がけていることはありますか?
住吉さん:その場でちゃんと相手に興味を持って聞く、ということでしょうか。「興味ないけど仕事だから聞いています」というのは、案外相手には伝わってしまうんです。
どう自分なりに自分の興味をかき立てて、相手の前に座るか。たとえば全然自分が詳しくない分野とか、今まで興味がなかった分野の方でも、その方の資料を見ていると、出身地が一緒とか、「このドラマであれを演じていた人なんだ」とか興味が湧く。個人的な興味で良いんです。そうすると自分のなかのスイッチがついて、自然とちゃんと聞けるんです。
意外にみんな日常でも“本当に聞いて”ないんですよ。たとえば家でも「聞いてよ」といわれても、適当に流しながら聞いていること、ありません?(笑)
── 覚えがあります。
住吉さん:よくあるのが、奥さんが「ちょっと聞いてくれるー?」と言って、旦那さんは新聞読みながら「ふーん」とか。
聞いているようで聞いてないってこと、実はいろんな局面であって。聞きながらスマホを触ったり、仕事の打ち合わせでも「次の時間は…」と考えながら話を聞いていたり。そういうのって、自分で思っているよりも相手にバレているんです。
それをいかにしないか。ちゃんと心どっぷり相手の話を聞く。それだけで、人は話し出すんですよ。基本的に人って、聞いてほしい生き物なので。
自分が話したいことを、本当に興味を持って聞いてくれる人がいると、人はちゃんと話してくれる。それは、いつも思うことですね。
「憂鬱になる」とあえて資料を読まずに本番へ
── なにか成功体験ありますか?
住吉さん: 「プロフェッショナル仕事の流儀」でいうと、東大の物理学者で量子光学が専門の古澤明さんのとき。
これは勉強しなきゃいけない、と思って資料を読んだんですけど、読めば読むほどわからない。資料を5行読んだだけでもうわからない(笑)。資料を見るとむしろわからないことが増え、憂鬱になってしまって、負の方向に気持ちが行っちゃう、と思ったんです。
それで思いきって「憂鬱になると話を聞きたくなくなるから、もう資料を見ないことにしよう」と決めて。
それで当日、目の前に座って、その場でお話を聞きながら、素朴に疑問に思ったことを伺っていったんです。その結果、ものすごくおもしろくお話が伺えたんです。
── へえー!
住吉さん:研究のための特殊な装置をスタジオに持ってきてくださって。資料ではわからなくても、目の前にすると「つまりこういうことですね!」と単純化した解釈ができて。それを古澤さんにお伝えすると「そうです、そうです!」と。
細かくはわからなくても、古澤さんの世界観とか、研究のすごさがわかってきたらおもしろくなって!どんどん質問も湧いてきて、濃いお話をたくさん聞かせていただけました。
そのときに、資料を読んで、憂鬱になって、知ったかぶらなくて良かった、と思ったんですよね。
あと、著名な方をインタビューするとき、事前に資料を読みすぎると、興味が失せてしまう危険があるんですよ。
── 私も調べすぎてしまうタイプなので、よくわかります。
住吉さん:取材中に「もう知ってる」という自分の無意識が出てしまう。お話を聞きながら「この人の苦労話って、多分あの話だろうな」とか。そうすると、熱量がなくなっちゃうんですよね。ちょっと聞くと満足してしまって、追加質問も出てこなかったり。
だから、相手に対する調べ加減も大事。それは「スタジオパークからこんにちは」という番組をやっていたときに感じたんですけど、その方の作品を見るのは良いんですけど、今までのインタビュー記事などを熟読しすぎると、聞いた気になっちゃうんですよね。
── 耳が痛いです…。
住吉さん:あとは、可能性も狭めてしまうとも思います。なぜなら、「あの話を聞けば良いだろう」となってしまうから。「いちばん印象的なのは、あの映画ですよね?」みたいに決めつけてしまう。
でも、違うかもしれない。もしかしたら誰もインタビューしたことのない内容が出てくるかもしれない。それを、調べすぎたことによって潰してしまうことがあるんです。
そこのさじ加減が大事だなということを感じています。