先日、TVの報道などで、育児支援の一環として「育休中にリスキリング(学び直し)をしてはどうか」という意見に対し、実際に育児を経験した人たちから「そんな時間があるわけがない」と批判が相次ぎました。一方で、少数ではあるものの「育休中にMBAを取りました」「社会から取り残されるのが怖いから、勉強して備えておきたい」という声もSNSなどで見られます。
育児と家事をしつつ、スキルアップの時間がどの程度取れるのかは、個人差がとても大きいもの。
そこで今回は、ここ数年に育休を取ったママ100人にアンケートを実施し、「育休中のリスキリングが可能だと思うか」についてたずねてみました。すると…なんと「できる」と回答した人はわずか5%という結果に。
育休の現場でママたちはどのように感じているのか、リアルな声を紹介します。
そもそも「リスキリング(学び直し)」とは?
「リスキリング」は、キャリア・転職などに関連する近年注目のワードですが、一般的にはまだそこまで知られていないかもしれません。
分解すると「re(リ)」+「skilling(スキリング)」で、英語の「re」つまり「もう一度、やり直しの」とスキル(skill)を合わせて「学び直す、新しいスキルを身につける」といった意味になります。
近年は、あらゆる業種業界の企業が、ITやデータを活用して仕事の効率や競争力を高める「DX(デジタルトランスフォーメーション)」化を迫られています。
日本は戦後長いあいだ終身雇用制が主流で、いったん入社すれば、ほぼ定年まで社内で経験を積んでいけば大丈夫でした。
しかし今では、入社した時代にはなかったような先端技術がどんどん出てくる時代。
会社がその技術やシステムを取り入れようとしようとしても社内で誰も使い方が分からない…ということでは会社の発展が望めなくなってしまいます。
そうならないように、従業員にも入社当時の学校で学んだ知識だけでなく新しい知識を身につけてもらおうと、研修や資格取得といった「リスキリング」をすすめる会社が増えています。
働く側も、終身雇用制が崩れつつある現在、不況でいつリストラや派遣切りなどに遭ってもおかしくないという危機感を感じている人も多いのではないでしょうか。
またみずから転職する人も増えていますし、出産で一時退職した女性が再就職を考えることもあります。転職・再就職にあたっては、いま多くの業界で人材不足といわれるデジタルスキルをはじめ、いろいろな能力を身につけていたほうが当然有利ですよね。
そこで、会社と個人両方のために、社会に出てある程度の年月が経ったら、せひ学び直しをしていきましょう…ということが、昨今さかんに言われています。
育休中のリスキリング できるかどうか現場に聞いた
「会社から育休手当をもらっておきながら、個人的に勉強するなんてモラルに反する」といった批判をときどき見かけます。
育休手当(育児休業給付金)は勤務先ではなく国の雇用保険から支払われるので、この批判は当てはまりませんが、育児という大仕事のために職場に業務の振替やフォローをしてもらうことには違いないので、もし子育てをせず勉強だけに専念していれば問題だといえます。
しかし今回、炎上というか問題となったのは、逆に「育休中にリスキリングする」ことについてでした。
SNSなどには育休中のリスキリングについて、
- 「育児休業は休暇じゃない!」
- 「育児するための時間になぜ勉強?」
- 「赤ちゃんのお世話でトイレもまともに行けないのに、勉強する時間があるわけない」
- 「子育てしたことがないから、0歳育児なんて暇だと勘違いするのでは」
…といった批判が飛び交いました。
しかし、数は少ないですが、
- 「育休中の余暇を利用して新しく資格を取った」
- 「進歩の激しい業界なので、子育てに専念しているあいだに時代遅れになりたくなくて勉強を続けていた」
という人もまた存在します。
実際にリスキリングや資格取得には至らなくとも、もし時間が許すなら勉強しておきたいと感じていた人も含めると、もっと数は多くなるのではないでしょうか。
そこで、この数年間に育休取得した経験のあるママ・パパ100人にアンケートをとり、「育休中にリスキリングができると思うか」とたずねてみました。すると回答は以下のように。
- 自分にはできないと思う…95人
- 自分ならできると思う…5人
と、自分にできると思う人はわずか5%、20人に1人しかいませんでした。
ただ、質問を変え「条件が揃えば育休中のリスキリングができると思いますか」としたところ、回答は以下のように大きく変化しました。
- 条件が揃っても自分にはできないと思う…43人
- 条件が揃えば自分もできると思う…57人
できる/できないが逆転し、過半数の人が「できる」と答えました。
これなら「育休中のリスキリング」が可能!その条件とは
では、育休中にリスキリングができそうな「条件」とはどのようなものでしょうか?アンケートの回答から、ママたちの考える「これならできるかも」という例を紹介します。
「赤ちゃんの育てやすさ。上の子は繊細でよく泣くので、昼寝も途切れ途切れで、とても集中して勉強なんて無理でした。下の子はどーんと寝てるタイプなのでこの子が1人目だったら勉強できたかも。今は上の子がいるのでそっちの相手で忙しいですが」(Yさん・3歳児と0歳児のママ)
「夫の家事協力ですかね!昼間はワンオペ育児で私が動き続けていたので、帰宅後に洗濯機の中身を片づけたり、食事の後片づけやお風呂掃除などを分担できれば、夜に毎日1時間くらいなら勉強時間が取れたかも。でも頼んでも絶対に協力してくれないと思いますし、はなから諦めてました」(Sさん・1歳児のママ)
「一時保育があればいいですよね。育休中は一日中、赤ちゃんを抱えて家事をしているか、お世話をしているか、でした。わずかな昼寝の時間は、勉強以前にトイレにいかせて…なにか食べないと…という感じで、最低限の生活がやっと(笑)。リスキリングなんて赤ちゃんのお世話や相手で中断されない環境でないとなかなか難しいです」(Uさん・2歳児のママ)
「実家に頼れること。職場で難しい資格を育休中に取った人がいるんです!でも聞いてみると、毎日3時間くらい実家に預けたり、実のお母さんが面倒見に来てくれたらしく…うちは生まれても一切実家には頼れないのでうらやましいですね」(Tさん・4歳児のママ・妊娠8か月)
「家事ヘルパーさんか、ベビーシッターさんがいれば…って感じですかね!私はもともと育休中に勉強するという発想はなく、職場復帰後はガッツリ働く代わりに、育休中は育児をしっかりやりたいのですが。もしどうしてもなにか勉強しなくては勤務先や社会が許さないというのなら、家事代行クーポンかなにか配布してもらいたいです」(Kさん・0歳児のママ)
おわりに
賛否両論の育休中のリスキリング。家庭ごとに、経済事情・実家やパートナーの協力度・赤ちゃんの気質などが異なるうえ、働き方や子供との向き合い方といった価値観も人それぞれ違うため、どちらが正しいとは言いきれません。
「条件が違うのに、育休中でも必ずリスキリングしないと怠慢と見なされたり評価が下がったりするのは不公平」「育休中にがんばって資格を取ったものの、赤ちゃんとのかけがえのない時間が失われた気分」「キャリアのための準備もしたいのに、母親は子育てと家事に専念するものと見なされてつらい」
といった声もあるように、最終的にママ自身が不本意な選択や後悔せずにすむような支援と理解が必要です。
文/高谷みえこ
参考:経済産業庁「リスキリングとはーDX時代の人材戦略と世界の潮流」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
厚生労働省「厚生労働白書2018」https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/06/dl/1-1d.pdf