態度の悪い子を「ダメと決めつけてはいけない」理由
── 親自身の心の問題でもあるのですね。応援席での言動を変えるだけでなく、「勝たねば」「ミスはダメ」という思いこみから脱却できればよいのですが。
藤後先生:スポーツで成果を出すのは素晴らしいことですが、目的は勝利だけではありません。スポーツをとおして子どもたちが“成長し、幸せになる”のが、あるべき姿です。
子どもの成長や幸せを実現するには、スポーツ以外にも多くの選択肢があります。
地域でいろんな年代や属性の人たちに出会うこともひとつです。子どもの個性にあった居場所や時間や自己の活かし方はさまざまです。
個性を活かして誰かの役に立ち、自尊心を向上させられる機会もたくさんあります。地域の高齢者介護施設でボランティアをする、異年齢グループで年下の子たちに何かを教えるなど、スポーツはその選択肢のひとつにすぎません。
もし、どうしてもいま入っているチームやスポーツが合わないなら、他のチームやスポーツを探してもよいですし、スポーツ以外の他の可能性を探してもよいと思います。
日本では“途中でやめる”人に対して、落伍者のイメージを押しつけがちなところが残っているので、実際には難しいと感じる人たちもいるでしょう。
しかし、子どもにはいろいろな可能性があります。子どもがワクワクするもの。笑顔になれるものを一緒に探してみてください。
── “やめると負け”という雰囲気はまだありますよね。でも、大きな意味で“子どもの成長・幸せ”をとらえると、視野が開けます。
藤後先生:スポーツに限らず、子どもの幸せについて考えようという機運は高まっています。
応援席ハラスメントは、『子どもの権利条約』や『児童虐待防止法・児童福祉法』の観点でも問題が指摘されています。
つまり、一方的に罵声を浴びせて、子どもを傷つけるのは“虐待”に等しい行為だと。学校や家庭では許されないのに、スポーツではOKなんて筋が通りません。
── 先生は解決策としてポジティブな声かけを提唱されていますが、プロを目指す子どもやミスを連発する子どもなど、個性やレベルが違っていても一律の対応でよいのでしょうか。
藤後先生:基本的にすべて、ポジティブな声かけ・雰囲気づくりがのぞまれます。そのうえでプロを目指す子どもには、選手育成コースなど選択肢を示せるとよいですね。
アメリカでは、ジュニアでも“プロ志向”、“プロ志向と趣味の両立”、“趣味メイン”のように所属するチームを分け、目的にあった運営を行っています。
ミスやトラブルの観点では、どうしても周りと動きをあわせられない子どもや、一見やる気がなさそうに見える子どもは、たしかに一定人数見受けられます。
“態度が悪い”、“集中力がない”と怒られることが多いのですが、じつは「発達性協調運動障害」や「注意欠如多動症」などの発達障害が隠れていることもあります。
忘れ物が多い、ルールが理解できないなど、思いあたる部分はありませんか?ぜひ指導者や親御さんは子どもを観察してください。そして気になる点があれば、一度、専門家に相談してみるとよいですね。
いつでも、子どもにとって親がいちばんのサポーターです。年齢や発達に応じて、希望すればすべての子どもたちがスポーツを楽しめる世の中にしていきたいですね。
PROFILE 藤後悦子さん
東京未来大学こども心理学部教授。筑波大学にて博士号(学術)取得。足立区スポーツ・運動分科会会長/文化・読書・スポーツ三分野連携委員会副会長。公認心理師として講演会や実践研究を多数実施。
取材・文/岡本聡子 図/アイル 写真提供/株式会社リクルート
統計数値の参考文献/井梅 由美子・大橋 恵・藤後 悦子(2017), 小学生のスポーツ活動における保護者の関わり 東京未来大学研究紀要, 11, 1-11.