親のひと言が「いじめ」を生むきっかけにも

── 気づかないうちに、親の劣等感や自己肯定感が子どもに影響を及ぼすわけですね。応援席ハラスメントを受け続けた子どもには、どのような変化が起きるのでしょうか?

 

藤後先生:ミスしたときに指導者である監督やコーチだけでなく、親の顔色をうかがうようになります。

 

そして、「親がどう思っているか、親から怒られないようにしよう」を最重要と考えるので、自分で判断して行動することができなくなります。

 

その結果、失敗を恐れてプレーが消極的に。球技ならばボールを持たない、ボールを避けて動く、などです。これは全国レベルのサッカーチームで実際にみられた事象です。

 

── プレースタイルにまで影響が出るとは深刻です。プレーだけでなく、子どもの人格形成にも影響は及びますか?

 

藤後先生:ネガティブな言動に傷ついて、自己肯定感が低くなる可能性があります。

 

また、応援席ハラスメントがチーム内の雰囲気を悪くすることでいじめが起きやすい土壌につながりかねません。

 

親からの否定的な言動を子どもたちが仲間に広げ、チーム内のコミュニケーションに悪影響を与えるのです。

 

親御さんたちには、自分たちの応援を受けて子どもがどんな反応をしているか、まずよく見てもらいたいです。とまどいの表情や暗い顔をしていませんか?

 

応援席ハラスメントは、親・観戦者の優位な立場を利用し、子どもたちに精神的・身体的苦痛を与え、プレー環境を悪化させるものです。

 

本来の応援とは、ミスをしても挑戦したことをほめ、「ドンマイ」「次がんばろう」など、前向きな雰囲気をつくり出す声かけです。この違いをまず理解する必要があります。

 

PROFILE 藤後悦子さん

東京未来大学こども心理学部教授。筑波大学にて博士号(学術)取得。足立区スポーツ・運動分科会会長/文化・読書・スポーツ三分野連携委員会副会長。公認心理師として講演会や実践研究を多数実施。

 

取材・文/岡本聡子 図版制作/アイル企画

 

(※1)藤後悦子(2021).「社会的子育てに必要な養護性(ナーチュランス)を形成するためには:小学生の母親の自己愛と習い事への価値観に焦点をあてて 日本森田療法学会雑誌,32(2),11-18 

統計数値の参考文献:「中学時代の運動部における指導者の影響(1)―チーム制と個人制との比較―」藤後悦子・大橋 恵・井梅由美子(東京未来大学こども心理学部)