高学歴、大手企業勤務の「生きづらさ」感じる人の利用も
── たくさんの方が巣立ったんですね。印象的な方はいますか。
林田さん:そうですね。例えば大手企業にお勤めだったうつ・発達障がい当事者の方で、ほかの就労支援機関に行った際に「あなたは支援はいらないでしょ」と断られてしまったという方がいました。
そんな方が「キズキだったら理解してもらえる、という安心感をもって学ぶことができた」と言ってくださったのが印象的です。
例えばある程度の学歴や職歴があったり、コミュニケーションも特に普通と変わらなかったりと、周りからは困難を抱えているように「見えない」方であっても、本当は周りからの支援を必要としていることはもちろんあります。
しかし、困難を抱えているように「見えない」がゆえに周囲から理解を得られなかったり、相談できなかったりすることで悩まれている方は一定数いらっしゃるんです。
キズキでは、学歴等のバックグラウンドや印象で支援の要否を判断するスタンスではまったくないですし、障害者手帳の有無も関係ありません。あとは、これまでその方たちが歩んできたキャリアとは、まったく別のキャリアに進んだ方も印象的ですね。
もともとは料理人をしていた方が、キズキビジネスカレッジでエクセルを覚えて、事務職に転職されました。飲食店で接客の仕事をされていた方が、プログラミングを勉強し、プログラマーとして就職されたケースもあります。
── 自己肯定感が低くなってしまった方はどうやって肯定感を取り戻していったんですか。
林田さん:自己肯定感が低くなっている状態の方は、本来自分を責める必要のないことでも、無意識のうちに「自分が悪いんだ」「自分がダメなんだ」と結論づける状態になっていることが多いです。まず、その無意識の思い込みに気づく支援をすることが大事になってきます。
キズキビジネスカレッジでは「自己理解講座」という自分の思考傾向や特性を理解する講座があるほか、各校舎には精神保健福祉士など専門家がいて、個別に相談することもできる体制にしています。
転職して役立ったと言われると嬉しい
── これまでやってきて嬉しかったことは何でしょう。
林田さん:キズキビジネスカレッジの学びが、すごく実践的だと受講生から言われることが多いのですが、実際に転職、就職して役立ったと言われると嬉しいなと感じます。
── やってきた中で、どんな困難がありましたか。
林田さん:困難は挙げれば尽きないですが(笑)、やはりキズキビジネスカレッジにはさまざまなキャリアを希望する方が通われています。障がい者雇用でも、最近ではさまざまな職種や働き方のポジションができてきましたが、やはりどうしても障がい者雇用の求人となるとキャリアの選択しはどうしても狭まる状況です。
目指したいキャリアがあって、スキルアップをして、体調も整えたけど、でも求人がない。それは利用者とともに支援者も、困難を感じざるを得ない状況でした。
しかしながら、ご本人の努力はもちろん、キズキビジネスカレッジを理解し、協力関係を築いてくださる企業様の存在のおかげで、卒業生は多様なキャリアを築いていっています。またここ数年では、世の中的に精神・発達障がいについて知られるようになってきたため、障がい者雇用の職種や働き方の選択肢も以前よりは広がったように思います。
今後も個々人の特性に合ったキャリアを築く方を一人でも多く輩出することで、ロールモデルとなって、障がいがあっても多様なキャリアが築ける社会を目指していきたいと思います。
── ここまでやってきて、どうお感じになっていますか。
林田さん:今やっていることに意義があるとは思っています。しかし、今の「キズキビジネスカレッジ」は障がい福祉サービスという国の枠組みで運営していることから、障がい福祉サービスを利用するための要件を満たさない人は支援を受けたくても受けられない状況があります。
たとえば、働いているけれど、発達障がいの特性、メンタル不調に困っている方がいらしても、働いている人は障がい者福祉サービスが利用できないことも多いのです。そのため、障がい福祉サービス以外の形でも、支援を届けたいと考えています。
例えば直近では休眠預金を原資とした助成金事業で、コロナ禍で就労困難を抱えた方の支援をしております。障がい者でなくても支援が受けられる事業ですが、実際の参加者の中には精神・発達障がい者やグレーゾーンの方も一定数いらっしゃいます。
今苦しんでいる人たちを応援したい
── 大変さの中でも取り組む、その思いはどこから来ているのでしょう。
林田さん:もともと自分が苦しかった原体験がありますが、今、苦しんでいる人たちがたくさんいると知り、まだまだできることはあると思うようになりました。
私、人の能力を見つけるところに関心があるんですね。人と話していても、「この人はここが得意だな」とか見つけるのが好きなので、強みが活かされていないのはもったいないと思ってしまって応援したくなるんです。
── これからの展望を教えてください。
林田さん:今の自分たちの事業をより拡大し、より社会にインパクトを出していきたいと思っています。
取材・文/天野佳代子 写真提供/株式会社キズキ