「不安がある」子どもは努力してきた証拠
── 心の余裕は大切ですね。受験校選びもですが、“成功パターンはこれ”、“このルートから外れると負け”のような概念にとらわれて苦しく感じている人も多いのでは?
藤後先生:「志望校に合格できなければ人生の終わり」と、思いつめてしまう人もいるかもしれません。
でも、本当はそんなことないですよね?中学受験が思いどおりにならなくても、高校や大学受験で挑戦の機会はあります。
中学・高校・大学と、もし第一志望校に行けなくても学べます。通信制や海外など、学びの選択肢は無数に存在しています。社会人になってからも一生学びは続き、受験は長い人生のごく一部にすぎません。
ただ、親子だけでは煮詰まってしまうときもあるでしょう。そんなときは、無条件で子どもを受け入れてくれる存在がよりどころになります。
たとえば、祖父母や親せき、習い事のコーチ、幼稚園時代の先生など、少し距離を置いて子どもを理解し接してくれる人は思い浮かびませんか?
もちろん、父親と母親がそれぞれ役割を決めて子どもに接するのでもOKです。たとえば、受験の細かいサポートは母親、話し相手や朝の勉強につきあう担当は父親などでもいいですね。
── 余裕を持つこと、不安のコントロールが重要なんですね。
藤後先生:余裕はあったほうがよいですが、不安をコントロールする必要はないのかもしれません。
ふつうは「不安はないほうがよくて、コントロールすべき」と考えますが、私の専門でもある心理療法のひとつ、森田療法の考え方では「不安を容認」することから始めます。
森田療法では「不安にとらわれる人はそれだけ生きる意欲を強く持っている」と、不安もある意味でポジティブなものと考えます。
受験を控えて不安なお子さんには、「合格できるか不安になるのは自然なこと。不安を感じるのは、それだけ合格したい気持ちの強さの現れでもあるんだよ。だから、目の前のできることからやろう」と声をかけてみてはいかがでしょうか。
PROFILE 藤後悦子さん
東京未来大学こども心理学部教授。筑波大学にて博士号(学術)取得。足立区スポーツ・運動分科会会長/文化・読書・スポーツ三分野連携委員会副会長。公認心理師として講演会や実践研究を多数実施。
取材・文/岡本聡子 写真提供/株式会社リクルート