トップ企業はわかっている
── 男女平等を推進すべきという流れのなか、しぶしぶ女性を採用…というわけではないのですね。
藤田さん:工学が持続可能な社会や生活のためのものになってきているから、女性エンジニアがいなければ必要なものを作ることができない、つまり競争に負ける、ということまで理解している人はまだ多くないように思います。
私自身、女性エンジニアの必要性を本当の意味で理解するまでには時間がかかりました。
実際、奈良女子大学で工学部を構想しはじめたときは、「そんなのうまくいくわけない」と言う人が多かったんですね。
でも、たとえばソニーやDMG森精機といったトップを走る企業の役員クラス、そして文部科学省や今の政権担当者のなかにも、本質を理解したうえで女性エンジニアを増やそうとしている人たちは確実にいます。
工学部創設に対する世間の風向きが変わり始めたのは2020年ごろから。賛同して手を貸してくださる方や理解者が増え、文科省もどんどん後押ししてくれるようになりました。
国立大学に新設の学部ができるのは数十年ぶりですが、国も女性エンジニアを増やす必要性を認めた現れだと感じています。
楽しそうでしょ?工学は未来を作る学問
── 「工学部に女子は集まらない」というイメージを覆し、2022年度一般選抜での倍率は4.7倍となりました。
藤田さん:工学部を作ることになったとき、「女子に選ばれる工学部とは何か」を相当に模索しました。
結果「技術の追求」ではなく、「何を人が望むのか」「どんな未来を望むのか」を起点とする工学を目指すことになりました。
── ホームページを拝見しましたが、自由度の高い履修形態などワクワクする内容でした。
藤田さん:工学って、未来を創造する学問なんです。ロボットでもプログラムでも、技術を使って未来をクリエイトするのが工学。楽しそうでしょ?(笑)
奈良女子大学では、その前提をベースに、分野にこだわらず講座を選べる柔軟なカリキュラムを用意しています。これからも時代にあった学問を修めることができる体制づくりを進めていきたいと思います。
PROFILE 藤田盟児さん
奈良女子大学工学部学部長。工学博士。都市建築史・建築芸術学を専門とする。1984年、東京大学工学部建築学科卒業、91年、東京大学大学院博士課程修了。広島国際大学教授などを経て、22年現在、現職。
取材・文/鷺島鈴香 画像提供/奈良女子大学工学部