数々のレスリング大会で活躍し、現在はアメリカで5人の母親として子育てをしているダルビッシュ聖子さん。幼少期から始めたレスリングを続けてこられた理由と、子どもたちが今、熱中しているという野球にはある共通点が──。インタビューを受けるのは久々と話すダルビッシュ聖子さんにお話を伺いました(全3回中の3回)。

レスリングをずっと好きでいれる理由

── レスリングを始めたのはいつごろでしたか。

 

ダルビッシュ聖子さん:兄がすでに習っていたので、2〜3歳くらいのときにレスリング道場にポンと入れられたんですが、最初はびっくりして泣いちゃったみたいで。

 

でも5歳くらいのときに、兄を待っているのがつまらなくて改めて始めてみたら、ものすごく褒められたんです。今、思うと前転ができたとか、決してたいしたことじゃないと思うんですけどね。

 

初の世界選手権で優勝した19歳のダルビッシュ聖子さん。ショートカットがお似合いで笑顔が可愛い

他にもいろんな習い事をさせてもらったのですが、最後まで残ったのはレスリングでした。家族がしていたので、しやすい環境だったのはあるかもしれません。きょうだい全員がサッカーしているというご家庭もありますよね。

 

習い事に一緒についていくからそうなるんだと思いますが、うちもまさにそうでした。

 

── そこから本格的に始められたんですね。

 

ダルビッシュ聖子さん:それが、私は、練習メニューのなかで自分が好きなことしかしなかったんです。マット運動とかジャンプとか、アクロバティックな部分だけ参加して、レスリングっぽい練習になるとサッと消える(笑)。

 

人がたくさんいたので、ひとりいなくなってもわからないと思っていたんです。

 

── “美味しいところ”からスタートしたんですね。

 

ダルビッシュ聖子さん:私が入っていたレスリング道場の先生は、子どもをとても大事にしてくれる方でした。今ならそれがよくわかるのですが、子どもとの接し方や、どうしたらやる気になるかというのを先生がわかっていたんだと思います。よく励ましの言葉かけをしている方でした。

 

2度目の世界選手権で優勝を果たしたダルビッシュ聖子さん(写真右)

当時の競合チームはやはりスパルタ練習が主流でした。レスリング自体がそういう競技なので、腹筋何十回というのも必要なのですが、私はほとんど怒られた記憶がないですね。

 

全国大会に行くと、他のチームの先生方からは怒鳴り声が聞こえていました。

 

小学校6年生までは他のチームに強い子がたくさんいて全然勝てませんでしたが、他のチームは指導などが厳しかったみたいで、中学に入るタイミングで女子の多くが辞めていくんです。私はただ、生き残っただけ(笑)。

 

厳しくされたことがなかったので、ずっとレスリングを好きでいられました。

 

── レスリングをされていたお父様からは何か言われましたか。

 

ダルビッシュ聖子さん:父は男の子にはレスリングをさせたかったみたいですが、私も姉もやれと言われたことはまったくないんです。先生から褒められて、父に「やりたい!」と言ったら「いいよ」という感じ。

 

父からも怒られたことはないです。嫌にならなかったのが続けてこられた理由だと思います。

試合に負けても「楽しかった!」

── 子どもへの接し方はどうするのがいいんでしょうね?

 

ダルビッシュ聖子さん:もちろん、あくまで私の主観ですが、海外に来て思うことのひとつに、こちらの方はより子どもたちを大切に扱っているように見えるんです。

 

アメリカの方は日常だと建前がより強く感じますが、それでも子どもに関してはみんな宝物のように扱っているのがすごく伝わります。

 

公共の場で子どもを連れていると、ほとんどの人がドアを開けておいてくれたり、エレベーターを譲ってくれたり。見て見ぬ振りをする人にはあまり出会ったことがないです。

 

うちの子どもたちが通っている野球チームも、見逃し三振でも「よくやったね!いいスイングだったよ!」って言ってくれるんです。

 

水族館を訪れるダルビッシュ聖子さんと子どもたち。水槽のシャチに夢中!

── すごいポジティブですね!

 

ダルビッシュ聖子さん:次男と三男のチームが13対1で負けた試合があったんです。「どうだった?」って聞いたら「Goodだったよ!めっちゃスイングした!」って言ってました(笑)。

 

「楽しかったんだ〜!よかったね。次も頑張ってね」って。点が取れなくて負けても、いつもこんな感じです。

 

最近、キッドピッチングというピッチングをする試合をしているのですが、ストライクがひとつも入らなくても「今日は何が楽しかった?」と聞いたら「ピッチング!」って。「(4点取られてたけど)そうか、楽しかったんだ〜」って。

 

── 純粋でかわいいです。

 

ダルビッシュ聖子さん:息子たちはいつも、「Good tryだったって言われた!」っていうんですが、きっと怒られることはないんでしょうね。夫が言うには、メジャーの選手たちも「彼らは試合でうまくいかなくても切り替えが上手」って。小さいときからこういう環境にいるからでしょうね。

 

落ち込んでもすぐ立ち直るので、すごく勉強になりますし、知り合いのママ友などの子どもたちへの接し方も吸収して、私も実践しようとしています。

 

お子さんたちの手繋ぎショット。下の子に歩幅を合わせて歩くお兄ちゃんたちの優しさが伝わってくる

いっぱいいっぱいになると、子どもに注意しすぎだったなと思うこともあるのですが、こちらの環境にいると、そんなに叱らなくてもいいかなと思えるようになりました。

 

今の私の育て方が将来どう結果として出るかはわかりませんが、特に習い事に関しては、頑張っている子どもに対して怒ってしまったら、ネガティブなイメージしか植えつけないと思います。

 

何を直していかなければいけないというのは大きくなったら考える必要はありますが、小さいうちは、ただ楽しくできたら一番かなって。技術を伝えるときはシンプルに。私がレスリングを続けてこられた理由も楽しかったからですし。

ユニフォームに身を包んだ夫のダルビッシュ有選手とダルビッシュ聖子さんの爽やか夫婦ショット

── お子さんが、野球選手になりたいと言ったらどうしますか。

 

ダルビッシュ聖子さん:今、長男は野球の道を目指していて、下の子どもたちも今のところ、野球選手になりたいと言っています(笑)。

 

夫に出会う前、長男は野球をしたことがなかったんです。でも夫がたくさん野球で遊んでくれていたのをきっかけに野球が大好きになって始めました。それからはもうずっと「野球選手になりたい」と言っています。

 

三男も同じで、野球が大好き。唯一、次男はそういう感じはなかったんですが、将来何になりたいのか聞いたら、「ベイスボールプレイヤーになりたい!」と言っていて驚きました。

 

わが家は自分のしたいことを応援するというスタンスなので、好きなことをしてくれたらいいなと思っています。

 

PROFILE ダルビッシュ聖子さん

1980年生まれ、神奈川県出身。姉・美憂、兄・徳郁の影響でレスリングを始め、1999年の世界女子レスリング選手権で初優勝を果たす。以降、同大会で00年、01年、03年と4度制覇。カナダカップ、アジア女子選手権、全日本女子オープンレスリング選手権大会などで多数優勝。アメリカのナショナルチームのコーチも務め、現在はアメリカ・サンディエゴ在住、4男1女の母。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/ダルビッシュ聖子