子どもと職員が一緒にやりくり
── SNSでは守山学園の家庭的な雰囲気もよく伝わってきます。どんな子どもたちが一緒に暮らしていますか?
仁科さん:現在守山学園には、年中から18歳まで、定員は30名ですが現在31名の子どもたちが暮らしています。
児童養護施設には基本的に、事故や病気で親が面倒を見られなくなった子どもや、最近は虐待を受けている子がほとんどですが、「適切な養育を受けられない子どもたち」が多く入所しています。児童養護施設は、そういった子どもたちを養育して、自立できるように働きかけをする役割をもっています。
── 子どもたちへの関わりで大切にしていることはありますか?
仁科さん:私は養育の現場で5年ほど子どもたちと暮らしていましたが、現在は里親を支援しています。子どもたちと生活をしていたときは、子どもたちが安心して生活できるように意識して関わっていました。
入所してくる子どもたちの背景はさまざまです。たとえば、話を聞いてほしいときに聞いてあげることが難しい家庭もある。ですから私たちは、そういう子どもの気持ちに寄り添いながら話したり、一緒にご飯を食べたり遊んだり、一緒に何かをすることを大切にしていました。
そういったなかで自己肯定感や自分への価値が高まっていくと、「こういうことに挑戦してみようかな」と、向上心や生きる力が高まっていきます。自立に向けた生活が少しずつ可能になっていくと思っています。
また、谷村園長の就任後は、子どもたちが「自分で選ぶこと」が増えました。たとえばおやつは、以前は園児から高校生まで全員に、職員が同じおやつを配っていました。今は、おやつ代として毎月3000円を子どもたちに渡して、子どもと職員が相談しながらどんなおやつを買うかを決めています。
── 子どもたちと職員が一緒に計算しながらやりくりをしているんですか?
谷村園長:そうなんです。通常だと、児童養護施設では、トイレットペーパーや洗剤なども施設で買って配布するのですが、守山学園では、お金を職員と子どもたちに渡して、買い物に行ってもらっています。「今日はこのスーパーでお肉が安いから買いに行こう」「今週は節約して、来週は豪華にバーベキューをしよう」といった具合です。
洋服だって「おしゃれな服がほしい」、シャンプーだって「どうしてもこのメーカーじゃなきゃ」ということもありますよね。そういうときに節約して買えるようにすることは自立への力になると思うんです。
年度の終わりにお金が余ったら、「旅行に行ってもいいやん」と。一昨年は一泊旅行をしたホームもありました。頑張ったご褒美に楽しいことをする。これって普通の家庭では当たり前のことですよね。そういうことを大切にしたいし、よく「児童養護施設らしくない」と言われています。
家庭の温かみを知らない子が多いから
── 家庭的な関わりをすることは児童養護施設の理想であり、そうあるようにと努力されている施設もありますが、なかなか実現は難しいという声も聞きます。
谷村園長:児童養護施設の子どもたちは、家庭の温かみを知らない子が多いです。ですから、その温かみを感じてもらうために“子どもたちの家”になることを意識しています。普通の家庭とあまり変わらないような関わり方を心がけています。
今回、クラウドファンディングを利用して改築した新園舎でも、一般の家庭に置かれている調理台を入れて、子どもたちが職員と一緒に料理できるよう広めに設計しました。業務用の調理台や調理器具はありません。
ただ、そうやってきめ細かくやろうとすると、職員は仕事が増えて大変です。子どもたちとスーパーで買い物するとレシートもその分増えますし…。でも、「子どもたちの自立を目標に一緒に汗をかこう」と、施設全体で分担しながら取り組んでいます。
取材・文/高梨真紀 写真提供/守山学園