商品のネーミングが漫画家転身の一因に

── 作品には、コピーライターという仕事の奥深さや難しさが描かれていますが、印象に残っている仕事はありますか。

 

うえはらさん:商品のネーミングを考える仕事は、特に印象に残っています。

 

作り手の思いを言葉にするという意味では広告と共通しているのですが、広告は次々に消費されて消えていくものがほとんど。

 

対してネーミングは、商品と一緒に残ります。僕がネーミングした商品のなかには、今でも販売されているものがあります。

 

世の中に残る仕事がしたいと思うようになったのは、この仕事がきっかけだったかもしれません。

 

── 漫画家も作品が世の中に残る仕事です。

 

うえはらさん:そうですね。漫画家なら僕が仕事で実現したいことが叶うかなと思い博報堂を辞めました。もともと絵を描くのは好きでしたし。

 

── とはいえ、大企業勤務のキャリアを手放すのは勇気がいりそうです。

 

うえはらさん:博報堂だったからというのもあるかもしれません。広告業以外でも活躍している人がたくさんいる職場でしたから。

 

プライベートで家具のコンセプトづくりに携わっていたら賞を取って、会社にプロダクトデザインの部署を作ったクリエイターの先輩や、朝1時間だけ小説を書いて賞を取った同期のデザイナーなど…。

 

そういうふうに自分で自分の仕事をクリエイトする人たちが何人もいました。そんな人たちが許容され、イキイキしている職場だったからこそ、臆せずキャリアの転換ができたのかもしれません。

 

PROFILE うえはらけいたさん

大学卒業後、株式会社博報堂に入社。コピーライターとして5年間勤務した後に多摩美術大学に編入し、漫画を描き始める。2020年4月に漫画家デビュー。マスナビで「ゾワワの神様」を連載中。著書に『コロナが明けたらしたいこと』(アスコム)。

 

取材・文/林優子 画像提供/うえはらけいた