新人コピーライターの成長を描く漫画「ゾワワの神様」。描かれるエピソードは、作者であるうえはらけいたさん(@ueharakeita)が、博報堂でコピーライターをしていたときの経験もいかされています。コピーライターがコピーを書く際、肝に銘じておくべき意外なこととは?うえはらさんが、漫画家に転身した理由についても聞きました。
コピーライターだからこそ「言葉を過信しない」
──「ゾワワの神様」を読むと、コピーライターのイメージと実際の仕事とのギャップがわかりますね。
うえはらさん:いまだにコピーライターというのは、「おしゃれなポエムのような文を書く人」というイメージを持っている人がいるかもしれないのですが、そういう仕事はほんの一部です。
むしろコピーライターだからこそ、言葉を過信してはいけないと教わりました。
── 第2話はまさにそうした内容でしたね。研修で出された「節電を促すコピー」という課題に対し、主人公は「OFFICEをOFFに。」などを考えて提出します。ですがその課題を出した先輩・A倉さんの意図は、別のところにありました。
うえはらさん:これは、僕の実体験に基づいたお話です。
研修は、先輩たちから課題をもらってこなすのですが、コピーを提出しても「え、50案?少なっ!」と言われたり、「ここに『コピー』と呼べるものはないな」と突き返されたりと、社会人になりたての当時の僕にとってはハードなものでした。
そんな研修が続きヘロヘロになっていたので、「コピーは3案だけでいい」と言ったA倉さんに対して「なんて優しい人なんだ」と思いましたね。
── でも、単なる優しさじゃなかったことに気づき、物語の主人公は感動を超えて「ゾワワ!」と震えます。
うえはらさん:A倉さんがこの課題を通して教えたかったのは「言葉は万能ではない」「本気でコピーを生業にするなら、それを肝に銘じること」ということでした。
実は僕が入社したのは、東日本大震災の直後。研修で節電を呼びかけるコピーをたくさん考えました。
でもどんなにいいコピーが貼ってあっても、節電の行動に直接結びつくわけじゃない。
漫画のなかでA倉さんが言ったように、節電してほしいなら「節電中」と書くのがいちばん効果的です。緊急性の高いメッセージは、言葉をこねくり回さずにシンプルに伝えるほうが効果があるんですよね。
入社間もない時期で、日々必死でしたが、先輩のシンプルで的を得た課題は今も心に残っています。