天才と言われる人ほど泥臭い努力をしている

── 第26話に登場する、同期のT塚さんのエピソードは印象的です。入社時から優秀で2年目研修での評価もダントツ。彼女と自分との差は「才能」と捉えていた主人公が、それは表面的な考えだったと気づく話でした。

 

うえはらさん:T塚さんは、一緒に研修を受けた同期がモデルです。漫画の通り入社したときから優秀で、研修での評価も高かった。

 

実際に「あいつは天才だから」とか「才能があるから」と言う人もいました。

 

でも身近で見ていると、彼女はものすごい努力をしているんです。

 

漫画に描いた「コピーを練るのに山手線に何周も乗車した」というエピソードも事実ですし、寝る間を惜しんで毎日大量のコピーを書いていました。いわゆる“天才”のイメージとは全然違っていて、むしろ泥臭い努力ができる人でした。

 

優秀なクリエイターには、彼女のような泥臭い努力家が多かったですね。

 

── コピーライターのようなクリエイティブな仕事はとくに、才能やセンスがものを言うと思われがちですよね。

 

うえはらさん:そうなんです。僕自身も、もともと優秀な人や才能のある人は自分とは違う存在なんだ、とどこかで思っていました。

 

でも実際は、天才と言われる人ほど途方もない努力をしているんですよね。

 

── 漫画の終盤でT塚さんが「めちゃくちゃ努力しとるわボケ!!」と心のなかで毒づく場面も痛快でした。

 

自分の努力を「才能」と言う人に対して内心激怒するT塚さん

うえはらさん:「『才能』という言葉に逃げるな」「そいつは成長の敵」というセリフは僕の実感です。

 

T塚さんの仕事に対する姿勢を目の当たりにして、優秀と言われる彼らも自分と地続きの存在で、その差は努力の差でしかないのかもしれないと思ったんです。

 

それからは、才能やセンスを言い訳にするのはやめよう、と考えるようになりました。

 

PROFILE うえはらけいたさん

大学卒業後、株式会社博報堂に入社。コピーライターとして5年間勤務した後に多摩美術大学に編入し、漫画を描き始める。2020年4月に漫画家デビュー。マスナビで「ゾワワの神様」を連載中。著書に『コロナが明けたらしたいこと』(アスコム)。

 

取材・文/林優子 画像提供/うえはらけいた