「リアル」という感想を越えて、思わずおなかが減ってしまうような食品のミニチュア作品を数多く手がける、田中智さん。ミニチュア制作との出会い、そしてプロとしてお仕事に向き合う今の想いについてお聞きしました。
“ホットドッグ”から始まった食べもの作り
── 吸い込まれるように見入ってしまう作品の数々。特に、食べもの作品を多く手がけられていますが、近頃の自信作、特に気に入ってらっしゃるものを見せていただけますか?
田中さん:お総菜が並ぶ、デパ地下のデリでしょうか。ビーフコロッケやエビフライ、新じゃがサラダやスモークサーモンと水菜のサラダなど、たくさんのトレイを作りましたね。
樹脂粘土と水彩絵の具がベースの素材となりますが、使う技術は常に進化しています。なので、基本的には最新の作品がいちばんの自信作なんですよ。
田中さん:SNSや書籍で作品を見てもらうことが多いので、制作時から「写真写り」はかなり意識しています。みなさん、スマートフォンでも画像を拡大して見てくださるじゃないですか。
ですから、「拡大されたときに粗がちょっと見えそうだな」 とか「もうちょっと細かく作り込んだほうがいいな」だとか、そういうことを、いつも想像・想定しながら作業をしています。
── 田中さんがはじめて制作された、ミニチュア作品は何だったのでしょうか?
田中さん:いちばん最初に作ったのは「ホットドッグ」です。あるとき足を運んだフリーマーケットがきっかけでした。
そこで、海外で作られたミニチュアの家具セットに出会ったんですよ。食器棚とダイニングテーブルと椅子が4脚ついたもので、その場で気に入って買って帰ったんです。そのテーブルに、自分で食べものも並べたいなと思うようになったのが始まりでした。
── 最初はやはりシンプルなアイテムを選ばれたのですね。
田中さん:「自分には絵心がある」と思っていたので、最初は小さなケーキぐらいであれば簡単に作ることができるような気がしていたんです。だけど、紙粘土で作るはじめてのミニチュア工作は本当に難しくて。12分の1の世界ですし、さらにその家具にあわせて食べ物を作るとなると、もっと小さくなるんですよ。
ケーキは諦めて、ホットドッグであれば何とかできるかと思ったんですが、ちっともうまくいかない(笑)。ひどいものでした。それがあまりにも悔しかったんです。
そこで、当時はまだまだ普及していなかったインターネットでミニチュア制作について調べてみました。すると、ミニチュアの食べもの作品を作って、「yahooオークション」で販売している方が数名いらしたんですね。「もしかして、こういうものって需要があるのかも…」と思って。
──「手作りのミニチュアが売れる」ということを知った。
田中さん:そうなんです。さらに「紙粘土よりも樹脂粘土がいい」ということもインターネットで学びました。試しにやってみたら、これがすごく使い勝手がいいんですよ。「素材の違いでここまで変わるのか!」と衝撃を受けて、片っ端から身の回りにある食べものを樹脂粘土で作っていきました。
夢中になる一方で、「yahooオークション」で見た光景がつねに頭の片隅にありました。クオリティの高いものを作って、それを売る。最初からそこをワンセットに考えて、ぼくのミニチュア作りは始まってるんです。