モーハウスが目指す次のステージ

── 現在岐路に立つモーハウスですが、研修で新しい着眼点も得たとか。

 

光畑さん:
貧困によって、社会復帰の機会がない若年層を雇用している現地のNPOを取材しました。これが、モーハウスのスタイルと似ていると感じたんです。

 

数値目標を掲げて成果を出すよう促しつつ、昇進制度もあるにはあるけれど、基本的には卒業して他で就職することがゴール。

 

モーハウスでやっている子連れ出勤は、一般的な育休期間中の、1歳前くらいまでがやりやすいんです。子どもが歩き始めると見守るのも大変になってきて、「だったら家の近くの保育園に預けて、そちら方面で働きます」とやめるケースが多い。

 

仕事に慣れたころに卒業していくので、会社の経営という意味では不合理なんですよ。でも、それでいいと思っています。

 

卒業生を追っていくと、皆さん、就業したり、起業したり、議員になったり、社会で活躍されている方が多いんです。

 

モーハウスでの経験が「抱っこしながらでも仕事はできる」「ちょっとした工夫と思いきりで育児はうんと楽になる」と気づくきっかけになり、子どもがいても自信を持って仕事ができるようになったとしたら、そのことは十分に価値があります。

 

利益を出すだけではなく、そうした形で社会貢献をする組織も必要。モーハウスの意義を再認識できたのも、研修の収穫だと感じています。

 

研修期間中、モーハウスに共感してくれている現地の母乳育児支援団体代表との面会も果たした

── 事業は縮小しても授乳服販売は辞めない?

 

光畑さん:
はい、辞めません。授乳服市場は拡大しましたが、その分品質にも幅があります。

 

使いづらい授乳服を購入し、「損した気分」になる人が少なくないことを、とても残念に思っています。機能的で日本のものづくりに支えられた商品を世に出し続けることも、モーハウスの責務だと思っています。

 

── いま、小さな子どもを抱えて閉塞感に苦しんでいるママたちにアドバイスはありますか。

 

光畑さん:
「いい母親にならなきゃ」「子どものことで他人に迷惑をかけちゃいけない」という思い込みで、自ら家に閉じこもり、がんじがらめになっている方が多いように思います。

 

子どもを連れて、まずは外に出てみましょう。おすすめは仕事をすること。子育てと対極的なイメージを抱いている人も多いですが、できたときの達成感はやはり大きい。

 

難しい場合は、子どもを連れて「自分が好きな場所」に出かけてみてください。外の世界にはいろいろな出会い、発見があって、きっと肩の力が抜けるはずです。

 

PROFILE 光畑由佳さん

有限会社モーハウス代表。筑波大学非常勤講師、東京大学大学院学際情報学府客員研究員、慶應義塾大学SDM研究員(幸福学)。(株)パルコでの美術企画、建築関係の編集者を経て、1997年、授乳服の製作を開始。モーハウスを立ち上げ、子連れ出勤制度を整えた。

 

取材・文/鷺島鈴香 画像提供/光畑由佳