「発達障害とは診断されないが、それに近い特性がある。そんなグレーゾーンの子どもを育てる保護者ならではの悩みもあります」と、小児科医の森中博子さんは言います。ADHDの小4長男と、グレーゾーンかもしれない小1次男の母親でもある森中さんに、グレーゾーンの保護者が抱える悩みについて聞きました。

グレーゾーンならではの悩みは3つある

── 発達障害におけるグレーゾーンとは、そもそもどのような意味で使われているのでしょうか。

 

森中さん:
発達障害とは診断されないが、特性がある。そうした状態が発達障害におけるグレーゾーンとされています。

 

グレーゾーンという表現は、もともと知的障害の領域で使われていた言葉です。IQ(知能指数)の平均値は100前後とされており、70以下だと知的障害と診断されます。

 

ところが、IQ71〜84くらいの場合、知的障害とは診断されないものの、子どもであれば通常級での学びが難しいし、日常生活でもさまざまな生きづらさを感じやすい。

 

そうした人々が「知的グレー」と呼ばれてきたことから、発達障害の世界でも同じようにグレーゾーンと表現されるようになったんだと思います。

 

小児科医として子どもの発達相談にあたる森中さん

── では子どもの発達障害グレーゾーンならではの悩みとは?

 

森中さん:
子どもの場合、発達障害グレーゾーンならではの悩みは3つあります。

 

ひとつは、適切な支援が受けられないこと。未就学のあいだであれば、集団でちょっとうまくできないなどの悩みがあれば、発達障害と診断がつかなくても療育が受けられるんですね。

 

ところが、小学校で特別支援教育を受けるには、発達障害の診断が必要です。地域によっては診断なしで受け入れてくれる自治体もありますが、そうではないところが多い。教育現場においての適切なサポートが受けられないつらさがあります。

 

ふたつ目の悩みは、保護者の相談先がないこと。発達障害の検査はひと通りしたけれども診断はつかない、でも学年が上がるほどに困りごとは増えていく。もう1回、検査を受けに行った病院からは「何でまた来たの?もう医療でできることはないから学校に相談をして」と言われてしまう。

 

地域差もありますが、行政に相談しても同じような傾向があります。未就学児までは支援センターが受け入れてくれるけれども、小学生になると「学校の先生に相談してください」となってしまう。医療機関や行政のそうした対応により、行き場をなくした保護者の方々を、これまで何人も見ています。

 

── 小学校ではグレーゾーンの子どもたちにどう対応しているのでしょう。

 

森中さん:
その学校の先生方次第といってもいいほどに、対応してくれる学校と、そうでない学校の差がとても大きいと感じています。グレーゾーンは病名ではないため、「やればできるはず、診断がつかないなら頑張りなさい」という学校が、実際は少なくありません。

「学校ではできる」から理解されにくい

── では「適切な支援が受けられない」「保護者の相談先がない」に続くみっつ目の悩みとは?

 

森中さん:
前の2つの悩みとも重なりますが、周囲の理解が得られないことです。  発達障害と診断される子は、ある意味、誰が見ても「そうなんだな」と症状がわかるんですね。言葉が出づらいとか、自分を叩いてしまうとか。

 

ところがグレーゾーンの子の場合は、そのときどきの調子や気分、環境、状況によって、できるときとできないときがあるんです。

 

子ども本人もそのことを自覚できていませんから、「あのときはできたのに、どうして今日はやらないの?」「やればできるのに、なんでふざけるの?」と周囲に誤解されたり怒られたりしてしまう。

 

森中さんは対面だけでなくSNSなどでも情報発信をしている

── 具体的な例はありますか。

 

森中さん:
たとえば、グレーゾーンの子によく見受けられるのが、「学校では頑張っている、でも家ではすごく荒れる」というパターンです。

 

学校では先生や友達の目がありますから、すごく頑張って何とかこなしているんですね。でもその分、ストレスがたまりますから、家では感情的になったり、荒れた行動を取ってしまったりする。

 

当然、保護者としては「なんで学校ではできるのに家ではやらないの!?」と思いますよね。先生に相談しても「学校では問題ありません」と片づけられ、医療機関に相談しても診断がつかなければ対応してもらえない。「お子さんをそんなに病気にしたいんですか?」と言われ、傷つく人もいます。

 

診断がつかないので、親の会などのコミュニティで同じ悩みを持つ保護者同士とつながることも難しい。

 

どこにも相談先がなく、周囲の理解も得られずに、困っている保護者の方はたくさんいると思います。