子どもの些細な行動や発言に、感動して泣いたり、怒りすぎてしまったり。育児では、親自身も驚くほど、感情が揺れ動くもの。ミュージシャンの坂本美雨さんは、湧き出る感情を、小学1年生の娘の前で素直に見せながら、自然体の育児をしています。その理由は、娘への強い信頼感と「自分の感情を出していい、と思ってほしい」という願いがありました(全3回中の3回)。
生身のままぶつかっていくしかなかった
── 坂本さんのSNSなどを拝見しても、坂本さんが娘さんに対して、怒ったり、泣いたり、素直な感情を見せている様子が印象的です。そういう生々しい感情を、子どもに見せることに葛藤はありませんでしたか?
坂本さん:
葛藤はなくて、諦めていました(笑)。世のお母さんって「お母さん像」をしっかりやり遂げられる人と、生身でいる人の、どちらかに分かれると思うんです。ざっくりですが。
自分がなりたいお母さん像になるために、グッと感情をこらえたり、多少演じたりする。それも大きな愛だと思うんです。
でも、最初から私はできないな、と。だから、選択肢になかったですね。生身のまま、娘にぶつかるしかなかったですね。
── その生身のままぶつかっていく坂本さんを、ご自身がきちんと肯定していらっしゃるのが素敵だなと思いました。世の親は「こんな自分は見せるべきじゃなかった」と葛藤しがちだと思うので。
坂本さん:
「本当にこれでよかったんだろうか」「言い過ぎてしまったかも…」と自問自答はいつもしています。
でも、良いように解釈すると、娘は私の不完全さの先にある愛を、ちゃんと感じ取ってくれるはずだ、と信じてもいるんです。だから「この子は大丈夫だ」と。
そういう私の不完全さを、「しょうがない、うちのお母さんはたまたまこうだった」と、乗り越えて、娘は成熟してくれるはず。それは、彼女の成長や人間関係や、もしかしたら子育てにも反映されるかもしれない。
でも、私は彼女に、自分の感情を出して良いんだなと思ってほしい。感情を出す自分のことを、許してほしいんです。
── お父様の坂本龍一さんも、才能ゆえのアンバランスさが魅力的な方だそうですね。
坂本さん:
そうですね。そういう不完全さが人間らしさだと思うし、歳を重ねるほど、そこが魅力だとも思えるので。そういうデコボコを認めて「それがあなただ」と、思える。
家族同士でもそうですけれども、それが社会の在り方であってほしいというのはありますね。人間の不完全さに寛容な世界であってほしいと思うんですよね。
── 今は何かと言えば、他人の欠点をたたきがちな世の中ですもんね。
坂本さん:
ねえ。そうですよね。とても不寛容な世の中で生きづらいです。