「自分よりも音楽が優先されるべき」と思っていた
── 他のインタビューで、坂本さんが、お父さまの坂本龍一さんを「教授」、お母さまの矢野顕子さんのことを「矢野さん」とお呼びになっていらっしゃいますが、 坂本さんにとって、お父さま、お母さまは改めてどんな存在ですか?
坂本さん:
すごく尊敬していて。自分の父であり、母である以前に、ミュージシャンであり、アーティストで。
素晴らしい音楽を作っていることが、たくさんの人の救いにもなっている。それを子どものころから、肌で感じていました。だから、私自身よりも音楽が優先されるべきだと思ってたんです。そっちのほうが崇高だ、と。
それで自分が我慢するようなことがあったとしても、当たり前のことだし、その我慢はもっと大事なことのための我慢で、絶対に無駄になってない、と思っていました。
小さいころからそこまで理論的に考えてたわけじゃないですけど、肌で感じていたんです。
たとえば、コンサートとか、すごく集中しなくちゃいけないときは、話しかけたかったとしても、その場は控える、とか。ずっとそういう空気を読んできましたね。その場において、なにが優先されるべきかを、瞬時に判断する子どもでした。
── 坂本さんが子どものころ、お母様のコンサートにいらっしゃったときに、まわりのファンの人のほうが自分よりも愛しているな、という寂しさを感じたそうですね。
坂本さん:
そうですね。決して、それは悪いことではなかったんですが、ただ、やっぱり私は寂しい気持ちだったんですよね。自分よりファンの皆さんのほうが、自分の親を必要としている。
私の親は、人の助けになる、人を救うような音楽を作っていて、長い間、たくさんの人に愛されている。自分が生まれるよりずっと前から、ファンの人たちは、私のお父さんやお母さんのことを見てきたんだ、というのはすごく感じていました。
だから、そっちが優先されて当然だな、と思っていたし、優先してくれることが嬉しい、とも思っていました。
たとえば「美雨のそばにいるために、ツアーはやめるよ」って言われても、嬉しくなかったと思うんです。
今は同じように私も、好き勝手にいろんなところ行ってしまうし、留守も多いんですけど、私は楽しいことをしてるし、やるべきことをやっている。
そこは、まったく遠慮していないけれども、でも私が感じていたような、「自分よりも誰かのほうが自分の親を好きなんだ」という気持ちは、さすがに寂しいな、と。娘には、自分がいちばん母を好きで、母も自分が一番だ、と感じていてほしいんです。