「同じ境遇の人の声を集めること」も有効

──​ 派遣社員の場合はどうでしょうか。

 

上谷さん:
派遣社員の場合は、派遣先と派遣社員のあいだに契約がないので、そこで契約の話をしてもあまり意味がないんです。

 

現在は、紹介予定派遣など派遣社員が社員になれるシステムも確立されていますが、『労働者派遣法』では「同じ会社に3年以上、派遣社員として働いてはいけない」旨、規定されています。この法律によって、お互いが長く働きたい・雇いたいと思っているのに、派遣社員としては働けないために双方が困っている、という話も聞きます。

 

──​ どうすれば、そのような行き違いを防げるのでしょうか。

 

上谷さん:
希望する雇用形態での条件をきちんと確認しておくことですね。正社員と派遣社員では、業務に対する責任など、同じようにみえて業務内容が違うことも多いです。どのように働きたいかに応じて、自分で雇用形態を選ぶことはできるわけですから。

 

待遇面で言えば、たとえば派遣社員だと交通費を支給されない、住居手当などの福利厚生がないといった事例については、交渉の余地はあると思います。正社員と全部同じというわけにはいかないかもしれませんが、一部でも「おかしいのではないか」と疑問に思うなら声をあげるのもアリだと思います。むしろ、そういう待遇差に関しては、どんどん言っちゃっていいところだと思いますね。

 

──​ とはいえ、「待遇を良くしてほしい」とはなかなか言いづらい場合も多そうです。

 

上谷さん:
派遣社員の場合は、個人で交渉するのは難しいので、派遣会社から派遣先に言ってもらうのが良いのではないでしょうか。会社の総務などに「交通費の支給はどうなっているのですか」などと派遣会社から問い合わせてもらい、そこを配慮してほしいと持ちかけても良いと思います。

 

私が過去に扱った案件で「正社員が複数で交渉して残業代を請求した」という例があるのですが、どの立場であっても、交渉するならひとりで声を上げるより、同じような立場の人と複数で交渉するのが得策です。人数が多ければ多いほど、多くの人が待遇に対して不満に感じていると会社にわかってもらえます。

 

労働者が不満を持って働いているというのは、その会社にとってもマイナスです。ある程度の人数が集まったほうが、会社に対してインパクトを与えられると思います。

 

PROFILE 上谷さくらさん

弁護士(桜みらい法律事務所)。青山学院大学法学部を卒業し、毎日新聞社入社。 記者として甲府支局で事件取材などに携わった。新聞社を退社後、司法試験に合格。2007年に弁護士登録(第一東京弁護士会)。著書『暮らし・お金・老後… おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください!法律と制度を味方につければ、1人でも自分を守れる!』(Gakken)など。

取材・文/池守りぜね イラスト/まゆか!