最近は、業務時間外の副業を認める企業がふえてきました。しかしクラウドソーシングと呼ばれるオンライン上での仕事発注の形式の普及などにより、トラブルに巻き込まれるケースがあとを絶ちません。 今回は、収入をふやすつもりで始めた副業で未払いなどの問題に直面したときにどのように対処すればよいのか、上谷さくら弁護士に教えてもらいました。
口約束だけの契約は不利「せめてメモがあれば」
── 副業トラブルとしてありがちなのが、報酬に関する問題。最初に条件をよく確認せずに仕事を受けてしまい、思ったよりも単価が少なかったとか、悪質な例ではまったく支払われないケースもあると聞きます。そういった場合、弁護士事務所などに相談するのはアリなのでしょうか。
上谷さん:
金額によるかと思います。副業の単価が1万円未満という場合、弁護士費用のほうが高くなる可能性がありますね。ですから、自分の身は自分で守るという意識を持ちましょう。未払いなどのトラブルは、たとえ副業であっても、仕事である以上きちんと相手に申し立てるべき。まずは業者側と交渉してみてください。
── 最初にきちんとした契約書を交わしていないと、不利なのでしょうか。法律のプロからみてどうでしょう。
上谷さん:
下請法には、「下請取引の公正化・下請事業者の利益保護」が定められています。下請法には親事業者の義務として「書面の交付義務」(3条)、「書類の作成・保存義務」(5条)が定められており、書面で契約を交わすことの必要性が記されています。
また、禁止事項(4条)では、「下請代金の支払い賃金の遅延禁止」(1項2号)「下請代金の減額の禁止」(1項3号)が定められています(※)。
※ただし、下請法の対象は資本金1000万円を超える事業者であり、下請の対象とされる業種も限定されています。フリーランスが保護されるかどうかは、現在法改正が検討されているところです。
契約は書面がなくても成立しますが、書面がないとトラブルになった場合に「言った、言わない」の争いになりますので、契約内容の立証がしづらいんですよね。
口約束であっても、「何月何日何時頃に、どこでこういうふうに相手が言いました」といった内容が日記に書いてあったり、「打ち合わせで〇〇に行きました」ということが手帳に書いてあったりすれば、まだ交渉の余地はあります。メールでも構いません。
── メモ書き程度でも証拠になるのですね。では契約に関することがひとつも書面に残っていない場合は、未払いなどのトラブルを回避できる可能性は低いのでしょうか。
上谷さん:
ひとつも証拠がないと、裁判を起こしてもほぼ勝てないでしょう。
仕事を依頼されるときに金額などの交渉がなされず、うやむやな依頼内容しか提示されなくて不安なときは、言いづらくても金額などの条件を事前にしっかり確認することが大事。具体的な提示がないのに、なんとなく仕事を受けてしまうこと自体が問題です。
── フリーランスで仕事を依頼された経験がない場合、自分で交渉するのが苦手な人は多いかもしれません。
上谷さん:
トラブルに発展した場合、証拠がなければ「そんな話はしていない」などとうまく丸め込まれがち。誰にも相談できずに泣き寝入りすることになってしまいます。「対価を得るために仕事を受けているのだ」と自信を持って、条件を確認すべきでしょう。そこで誠意のない対応をするような仕事先とは、つき合わないほうが無難です。