食品をはじめ、何もかもが値上げされているなか、実家や義実家からのお米や野菜に救われている人も多いようです。ただ、あまりに大量に送られても、下処理が間に合わなかったり保存がきかなかったりで、逆に困ってしまうケースも…。
1か月に40キロも届くお米や野菜「どうしろと?」
「夫の実家は農家だから、お米や野菜が送られてきて助かってはいるけれど…」と話すのはユキコさん(37歳・仮名=以下同)です。
「6歳と4歳の男の子がいますが、まだそれほど大量に食べる年齢でもありません。でも『男の子なんだから、そろそろいっぱい食べるようになったでしょ』と、昨年から突然、送ってくる量が倍になったんです。
お米が月に40キロも届き、野菜も大きなダンボールにふた箱とか。近所にわけていましたが、それも手間だし、もらうほうも“お礼をしなくちゃ”と思うみたいで、かえって負担をかけてしまうんですよね」
ユキコさんは結婚して7年、ずっとフルタイムで共働きをしてきました。ふだんからとにかく時間がありません。
だから、ほうれんそうや小松菜などの葉物を送ってもらっても、その下処理をするために時間をとられるのが不満でした。
「申し訳ないけれど冷凍のほうれんそうを買ったほうが、ずっと効率がいい。
子どもたちには“新鮮な野菜を食べさせなさい”と義母は言いますが、結局、冷蔵庫のなかで腐らせてしまったら意味がありません。
だから夫に、“ありがたいけど量を減らしてほしい”と、伝えてと頼んでいたんです」
「困ります!」ブチ切れて義母に電話をしてガチャ切り
それでも月に2、3回、大量の野菜が届きます。そのうち、不在票が入っているとドキッとするようになっていきました。
今年の夏、事件が起きます。キッチンに置いていた米の袋の周りに、なにやら小さな虫がいるのを見つけたユキコさん。袋を開けると、大量の虫がわいているのを発見したのです。
「虫が大の苦手な私のなかで、その瞬間、何かがブチッとキレました(笑)。
すぐに義母に電話をかけて、『あんなにたくさんもらっても困るんです。私たちの生活はお義母さんたちとは違う。押しつけるのは、やめてください!』と怒鳴って電話を切りました」
勢いで言ってしまったものの、義母がこちらを思いやって送ってくれたことはわかっています。その後、ユキコさんはすっかり落ち込んでしまいました。
夫によれば、息子の妻に怒鳴られた母親も落ち込み、寝込んでしまったとか。そこでユキコさんの怒りは夫に向かいました。
「そもそも、どうしてこういうことを夫がうまくハンドリングしてくれないの?量を減らしてと伝えたのかと聞いたら、『忙しくて忘れていた』と。
言えなかったんでしょう、おそらく。それなら私が頼めばよかった。
自分で言ってくれるというから任せていたのに。私が直接言うと角が立つと思ったから、夫に頼んだのに。夫にひたすら怒りをぶつけてしまいました」
問題は食品を送ってもらう量より“夫婦の温度差”
年に1、2回しか会わないから、関係が悪化すると修復にも時間がかかります。
義母を嫌いなわけではないし、ありがたいと思ってはいるのに、その気持ちが伝わらないことに、ユキコさんは歯がゆい思いをしました。
夫は自分の実母だから、「大丈夫だよ、そのうちまた送ってくるよ」と言っていましたが、いまのところ米や野菜はあれ以来、届きません。
「しかたがないから手紙を書きました。虫を見てパニックになって言いすぎたと謝罪したんです。これからも送ってほしいとは書けませんでしたが」
その後、義母からは、“こちらこそ出すぎたことをしてごめんなさい”と手紙が来ましたが、食料品は来なくなりました。
「それはそれで困るんですが(笑)、しかたがありません。これからは食費が倍増すると思いますが、なんとかやりくりするつもりです」
いろいろ悩んだり考え込んだりしたユキコさんですが、夫は相変わらず飄々としているそう。
その温度差にまた「イラッとくる」らしく、「こういうことがのちに溝になるのではないか」と、危機意識も抱くようになっていると言います。
時間を見て話し合い、スッキリしておいたほうがいいとわかっていながら、日常の忙しさにまぎれてしまう。誰もが経験のあることかもしれません。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里